医療関係者の皆様へ

こんなときには漢方

月経困難症

 高い山に登ろうとする時には、山を制覇しようとする強い意志も大事ですが、服装や装備、食料など十分な準備も必要です。漢方医学では全身を巡る、目には見えないエネルギーを気(き)、物質面を支える赤い液体を血(けつ)と呼び、どちらも重要視しています。

月経異常
 血は現代医学の血液とよく似ていますが、漢方医学では局所に滞る傾向があります。暗赤色の唇や目の周りのクマ、皮膚に見られる毛細血管拡張は目に見える血の滞りによる症候で、私たちは瘀血(おけつ)と呼んでいます。瘀血はさまざまな症状を呈します。不眠、精神症状、腰痛、筋肉痛、痔(じ)などで、女性の月経異常などは、血の滞りによって起こると考えています。診察すると、しばしばおへその周りに圧痛が認められます。

 20代の女性。無月経で来院されました。2年半前から月経が来なくなり、結婚をひかえ、婦人科でホルモン療法を受けましたが、副作用のためか急激に体重が増加してしまいました。瘀血の病態と考え、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」を投与したところ、2週間後には月経が1年ぶりに自然に来ました。5ヶ月後には予定通り花嫁となられました。

 桂枝茯苓丸にはボタンやシャクヤクなどの美しい植物が使われており、血を巡らしてくれます。

機能性月経困難症(特に月経痛)への処方

腹や腰がつっぱり痛む ツムラ 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)(ツムラ68)
下腹部が張るように痛む ツムラ 当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)(ツムラ123)
冷え症でむくみや水様帯下あり ツムラ 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(ツムラ23)

薬の解説

  1. 芍薬甘草湯
    月経時に腹や腰がきゅーっと突っ張って痛む、腹直筋の緊張がある
  2. 当帰建中湯
    月経時に下腹部を中心に張って痛む、下腹部の腹直筋の緊張がある
  3. 当帰芍薬散
    手足が冷えやすい、むくみやすい、水様帯下、上腹部の振水音
    →「水」の異常
    鎮痛効果というより“体質改善”を期待

※振水音:腹壁を揺さぶったり体を動かしたりするとぽちゃぽちゃと音がする

別の一手

 月経痛は温めると軽快し、冷やすと悪化することが多い

 → 漢方医学的には寒(かん)(=冷え)が存在!
 → 三和加工ブシ末(S-01)0.5~1.0g/1回を追加!

※最初から附子を含んだエキスもあるので必要に応じて使用する
芍薬甘草湯+附子 = 三和芍薬甘草附子湯(さんわしゃくやくかんぞうぶしとう)(S-05)1.5g/1包
当帰芍薬散+附子 = 三和当帰芍薬散加附子(さんわとうきしゃくやくさんかぶし)(S-29)3.0g/1包

 『寒がある時は、特に白湯に溶いて温かいうちに服用するのがコツ!!』

実際の処方
例1
Rp1 : ツムラ 当帰芍薬散7.5 3×毎食前
Rp2 : ツムラ 当帰建中湯2.5+三和加工ブシ末0.5 疼痛時に頓用(1日3回まで)
痛みが出現しそうだと感じたらひどくなる前に服用した方が効果的!
例2
Rp1 : 三和当帰芍薬散加附子9.0 3×毎食前(平常)
Rp2 : 三和芍薬甘草附子湯4.5 3×毎食前(月経前後)

 痛みに対して鎮痛剤を常用していると胃腸障害をきたす危険性などがあるが、漢方薬はかえって胃腸の働きを整えてくれたり、冷え症やしもやけが治ったり、肌がきれいになったりと嬉しい「おまけ」がつくことがしばしばあります。

適応病名

 芍薬甘草湯の効能又は効果は「急激におこる筋肉の痙攣を伴う疼痛」とされ、「急激におこる筋肉(おもに下肢)の痙攣性疼痛ならびに腹部仙痛を訴える場合に用いる」とあります。当帰建中湯は「月経痛」「下腹部痛」、当帰芍薬散は「月経不順」「月経困難」の適応病名があります。

産婦人科医の視点 - 月経困難症

定義

 月経時に下腹痛、腹痛など骨盤を中心とした耐えがたい疼痛を主体とし、嘔気、嘔吐、下痢、頭痛、悪心などの随伴症状のため、社会生活に支障があり、医学的治療を必要とするもの

症状

 下腹痛、腰痛、嘔気、嘔吐、胃痛、乳房痛、便秘、下痢、めまい、精神不穏、食欲減退

分類
  1. 機能性月経困難症(原発性月経困難症)
    頚管の狭小、prostaglandin(PG)の過剰産生等が原因
    痛み以外に多彩な随伴症状が出現することあり
  2. 器質性月経困難症(続発性月経困難症)
    子宮内膜症、子宮腺筋症などが原因で起こることが多い
    まれに子宮筋腫、骨盤内癒着症、子宮奇形で発生
治療
  1. 非ステロイド系抗炎症薬(メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、ロキソプロフェンナトリウム等)
    PG合成阻害剤である非ステロイド系消炎鎮痛剤が第一選択
  2. 排卵抑制薬(ピル、低用量ピル)
  3. 精神安定薬(ジアゼパム等)
  4. GnRH誘導体など
    子宮内膜症、子宮筋腫などの器質性疾患がある場合は原疾患への治療

※治療は鎮痛剤のみと考えられがちであるが、痛み止めから、ホルモン的な長期内服のものまで、年齢、ライフスタイル、原疾患の有無、挙児希望の有無により、治療方法にはバリエーションあり

血の巡りを良くする話

 漢方医学的な体内循環要素の気・血・水の中で、赤い液体が(けつ)です。血の異常を瘀血といい、「血がサラサラ流れない」状態を意味し、つまりは末梢循環不全を伴うような病態といえます。の兆候として、皮膚・粘膜の異常(しみ、目の隈、舌・歯齦・口唇などの暗赤色)、皮下出血し易い、静脈瘤や毛細血管拡張、痔核などがあります。 兆候は下腹部にも出現し易く、下腹の腹壁にしこりを伴う圧痛が出現します。女性の月経周期に伴う異常や病態悪化も が関与し、性周期に伴って症候が変化する皮膚疾患や神経症、その他、種々の疾患に 治療薬(()()(けつ)(ざい))が使われます。 病態は動脈硬化や虚血性の諸疾患にも関連が深く、血液粘度の上昇や、実態顕微鏡で毛細血管に る赤血球の凝集塊や血流障害が観察されますが、これらの所見は駆 剤投与で改善します。“血液サラサラキャンペーン”の治療に、なくてはならない治療薬といえそうです。
 月経時痛も 関連病態ですが、 ( かん)の関与も高頻度で、当帰建中湯や当帰芍薬散といった主に陰証(冷えが主体の漢方医学的病態)に適応となる駆 剤に、熱薬で鎮痛効果を伴う附子を加えて治療するのが効果的となります。