医療関係者の皆様へ

こんなときには漢方

遷延する捻挫に治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)

捻挫
 足関節の捻挫はスポーツの現場だけでなく、日常生活で非常によくみられる外傷です。
 治療は、RICE(Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上))が基本で、足関節の痛みは、軽症であれば数日から1~2週間で引きますが、重症になると1ヶ月以上かかることもあります。正しい治療を行っているにも関わらず、疼痛や腫脹が持続する症例も存在し、あるSystematic Reviewによると、足関節捻挫の患者さんの5~25%が1年後にも痛みなどの症状が残存していると報告されています。
 今回は、そんな痛みや腫脹が遷延している捻挫に、是非使っていただきたい漢方薬「治打撲一方」を紹介します。

実際の症例

捻挫2
 まず、実際の症例を紹介します(右図参照)。40歳代の女性、約2ヶ月前に右足関節を捻挫。3週間のシーネ固定で治療を行いました。しかし、2ヶ月後も疼痛が持続し、右足を引きずって歩行していました。診察したところ、右足関節に熱感と腫脹があり、右足背は赤黒く変色していました。治打撲一方エキス3包分3で治療を開始したところ、2日後には右足背の変色が改善し、右足関節の腫脹が軽減しました。4日後にはさらに熱感と腫脹が改善しました。治打撲一方を7日間内服することで、2ヶ月間症状が持続していた足関節の熱感と腫脹が消失して、歩行時の痛みも改善しました。

古くから使われる便利な治打撲一方

 治打撲一方は、打ち身に対する漢方薬として江戸時代から使用されており、熱や痛みを和らげ、血液循環を改善する作用をもっています。
 紹介した症例のように亜急性期から慢性期の遷延する打撲・捻挫に使用されることが典型的ですが、受傷直後の急性期からも使用できる便利な漢方薬です。SAIDsが副作用などで使用できない場合にも良いです。また、使い過ぎによる肩や腰の過負荷や手術の侵襲なども広い意味での外傷と解釈すれば、肩こりや腰痛、術後の創部の腫脹・発赤、さらに術後に長引く患部の痛みなどに対しても応用可能です。手作業をやり過ぎて肩こりがひどくなった場合や、草取りを頑張って腰が痛くなった時に治打撲一方を飲んだら効きましたという患者さんも多く、中には自分で上手に症状をコントロールされている方もいます。

症状に応じた併用も

 治打撲一方の使用の注意点として、瀉下作用のある大黄が少量含まれていることから、軟便傾向になってしまうことがあります。しかし、特に急性期から亜急性期の症例では、少し下痢をした方が治りも早いようです。
 また、局所の熱感や腫脹が強い場合は熱を冷まして、浮腫を除く作用のある越婢加朮湯(えっぴかじゅっとう)を併用し、一方、慢性化して患部を温めると痛みが軽減したり、寒くなると古傷が痛むというような場合には、温める作用のあるブシ末を併用した方がより治打撲一方の効果を高めることができます。遷延している足関節捻挫をはじめ、いろいろな痛みで困っている方に是非ご使用ください。

実際の処方例

治打撲一方エキス3包分3
 局所の熱感・腫脹が強ければ越婢加朮湯(えっぴかじゅっとう)エキス3包
 慢性化して温めると痛みが軽減すれば 加工ブシ末3包 を併用する