医療関係者の皆様へ

こんなときには漢方

「介護疲れ」に漢方治療

介護
 高齢化の急速な進行、在宅医療の推進に伴い認知症などを患う家族の身の回りの世話を担当する介護者の役割が増加しています。介護される側は様々な症状に対して治療を受けることができますが、介護する側が治療対象となる機会は少ないのが現状です。介護は、精神的・身体的に負担が大きいにも関わらず介護者の苦労が理解されない、負担を軽減できずに苦しんでいることも多く、介護者の心身をいかに良好に保つかが、介護継続の上で重要あると考えます。今回は、介護負担から出現したと考えられる症状に対して漢方治療が奏効した症例を紹介します。

症例1 82歳 女性 (離島診療所での症例)

主訴:全身倦怠感
病歴:変形性膝関節症・骨粗鬆症にて通院中。2週間前より夫が緊急入院となり、毎日、渡船で見舞いに通っている。数日前より全身倦怠感が出現して食欲も低下したため、受診した。
現症:身長145cm、体重42kg、血圧102/52mmHg、脈拍60回/分、体温35.8度、心音・呼吸音に異常なく、下腿浮腫も認めない。
経過:明らかな器質的異常がないと判断し、漢方医学的には普段より眼に力がない、声が小さいことに着目して補中益気湯エキス7.5g/日を処方した。1週間後、「薬が美味しく、倦怠感は7割に減った。」2週間後、「体は楽になったがもう少し続けたい」と改善を認めた。また、2年後(筆者異動後)、再び夫が入院となり、「以前、内服したあの漢方が欲しい」と後任の医師に希望して、介護が大変な時は必ず内服している。

症例2 73歳女性

主訴:全身倦怠感、不眠、左下肢痛
病歴:夫が当院にて長期入院中(夫はわがままですぐに怒るのでこちらもイライラする、病院の食事は食べないので毎日、弁当を作って通っている)。2 ヶ月前より全身倦怠感が出現、悪夢があり眠れない。2週間前より左下肢痛が出現し、近医にて坐骨神経痛の診断でNSAIDsを内服したが、胃が悪くなる。漢方治療を希望して当科受診となった。
現症:身長154cm、体重61kg、左Patrickテスト(+)
経過:全身倦怠感、不眠、悪夢に対して柴胡加龍骨牡蛎湯エキス7.5g/日を処方した。3週間後、「悪夢が減ってだいぶ眠れるようになってきた。左下肢痛も3割に軽減した」、4週間後、「全身倦怠感はない。主人は相変わらずわがままだが・・・」と改善を認めた。

介護者を支えるために

 「介護疲れ」に対する漢方治療のポイントとして第一に、その症状が、疲弊して気力・体力の低下から出現しているのか、介護ストレスによるイライラから出現しているのかを鑑別する必要があります。次に,その他の随伴症状に着目して適応する漢方薬を決定します(ポイント参照)。介護負担から出現している様々な症状に対して漢方薬を使って丁寧に対応すれば、「介護者を支える」ことが上手にできるようになり、患者・家族との信頼関係をより高めることができると考えます。心身の不調を訴える介護者がいましたら、漢方薬を用いて、症状を和らげてあげてはいかがでしょうか?

 
介護疲れに対する漢方治療のポイント
①気力・体力が低下している
手足がだるい・眼に力がない・声が弱い・・・補中益気湯エキス7.5g3X
or
補中益気湯の特徴+皮膚の乾燥・脱毛が目立つ・・・十全大補湯エキス7.5g3X
②ストレスからイライラしている
せっかち・怒りっぽい・不眠・・・抑肝散エキス7.5g3X
or
精神不安・動悸・悪夢を伴う不眠・・・柴胡加龍骨牡蛎湯エキス7.5g3X