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こんなときには漢方

胃切除後の食物の停滞に茯苓飲(ぶくりょういん)

腹痛
 日本人の2人に1人は癌にかかると言われています。胃癌のために胃切除術を受ける患者さんも多く、その後、食物が停滞して、もたれや嘔気・嘔吐などの症状があるようです。今回は腹腔鏡による胃の部分切除に茯苓飲が奏効した症例を提示します。

症例

 Fさんは60代の女性です。既往歴に脳梗塞があり、高血圧症、糖尿病、高コレステロール血症の治療中です。
 ある年の夏に空腹時の胃部不快感があり、上部消化管内視鏡検査を施行したところ前庭部にA2ステージの胃潰瘍病変が見られ、生検より胃癌と診断されました。腹腔鏡下で幽門側胃切除を受けましたが、術後、「ご飯が食べられない、嘔吐した」とのことで依頼を受けて外科病棟に往診に行きました。噯気(あいき)(ゲップ)がよく出て、食後に嘔吐したそうです。体重も5㎏減少していました。煎じ薬で茯苓飲を処方しました。術後18日で退院し、その10日後の再診では、「家では元通り食べられる。よく噛んで食べている。」とのことで、体重も3㎏増加していました。

茯苓飲の処方

 胃の部分切除術では、胃の蠕動運動を司る神経を切断することで、蠕動運動が低下し、長時間、食物が胃に停滞します。茯苓飲は手術により自律神経機能が遮断されたものを治療すると考えます。また茯苓飲は構成生薬に甘草(かんぞう)が含まれておらず、副作用の偽アルドステロン症を心配せずに処方することが出来ます。

 胃切除後早期吻合部狭窄症状を改善する目的で茯苓飲を投与した文献では、85.7%の方に1週間以内で症状の消失を認めています。
 茯苓飲は、胃切除後のもたれなどの症状のほか、逆流性食道炎にも有効です。

茯苓飲
噯気(ゲップ)、逆流症状を目標に胸焼け、嘔気・嘔吐、つかえ感など上腹部だけではなく胸部まで及ぶ症状に。
茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)
茯苓飲に半夏厚朴湯を加えた処方。のどから上腹部にかけてつかえる場合に。
六君子湯(りっくんしとう)
食欲がなく、上腹部でチャプチャプ水の音がする場合に。
人参湯(にんじんとう)
もともと冷え症で胃腸虚弱な場合に。上腹部がつかえて、上腹部を触ると冷たい感じがする場合に。

文献 服部和伸他、胃切除後早期吻合部狭窄に対する茯苓飲の効果、日本消化器外科学会雑誌28(4)966-970、1995年