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こんなときには漢方

起立性調節障害

頭痛
 起立性調節障害は、立ちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、頭痛などの症状を伴う、思春期(10~16歳)に好発する自律神経機能不全の一つです。軽症例を含めると中学生では約10%の有病率で、重症例になると日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校や引きこもりを起こします。不登校の約3~4割に起立性調節障害が並存するとも言われています。今回は、起立性調節障害に対する漢方薬「苓桂朮甘湯」を実際の症例をもとに紹介します。

症例

 中学生の男児。もともとあった立ちくらみが、X年2月上旬より悪化。朝はなんとか起きられるものの、気分不良で遅刻するようになった。2月下旬には、気分不良、嘔気、頭痛が1日中持続して不登校になった。3月に小児科でミドドリン塩酸塩錠の内服、カウンセリングを開始したが改善せず、4月に当科を紹介受診した。

現症

体格やせ型。起立すると浮動感と動悸。口渇があるが、飲水は1L /日未満。尿2~3回/日と少ない。幼少時から乗り物酔いしやすい。

経過

初 診 時:苓桂朮甘湯エキス3包分3を開始した。
1週間後:漢方薬を飲み始めてから調子が良い感じ。きついと言いながらも学校に行けるようになった。元気と食欲が出てきた様子。母親に「おなかがすいた」「行ってきます」と言うようになった。(これまでになかったことで、母親が驚いている)
1ヶ月後:遅刻せずに毎日登校できている。
2ヶ月後:梅雨に入って、少しきつそうだが大丈夫な様子。
3ヶ月後:部活で県大会に出場。終診。

起立性調整障害の治療では

 めまいは水分代謝が悪い状態(水毒)が原因で起こると漢方医学では考えます。特に起立性めまいには、水分代謝を調節する漢方薬の1つである苓桂朮甘湯が頻用され、立ちくらみ以外の頭痛や動悸、倦怠感などの起立性調節障害の症状にも有用です。起立性調節障害の症状は、午前中に強く午後には軽減する傾向があります。この傾向も苓桂朮甘湯を投与する目標になり、漢方ではフクロウ型(夜はいつまでも起きているが、朝なかなか起きられないタイプ)とよんでいます。呈示した症例のように起立性調節障害に苓桂朮甘湯が有効な症例があり、このような症例では腹部の診察で心窩部を軽くたたくとチャプチャプと音がする「振水音」を認めることが特徴的です。
 起立性調節障害の治療では、「根性や気の持ちようだけでは治らない身体疾患であること」を本人と保護者に理解を促すことも重要であることから、漢方治療を行うことで、病気と認識してもらう一助にもなると考えます。苓桂朮甘湯のみでは効果不十分な場合は、処方例のように他の漢方薬と併用します。漢方薬の服用に加えて、適度の運動や夜間のスマートフォン使用の禁止など正しい養生の指導も大切です。 梅雨から夏にかけて湿度が高くなるこの季節は、症状が悪化する方が増えますので、苓桂朮甘湯を起立性調節障害の治療の選択肢に加えていただけたらと思います。

実際の処方例

苓桂朮甘湯エキス3包分3
  頭痛・めまい・嘔気が強ければ…五苓散エキス 3包
  虚弱体質・腹痛があれば…………小建中湯エキス3包
  を併用する