こんなときには漢方
腰部脊柱管狭窄症に八味地黄丸
高齢者に起こる坐骨神経痛や間欠性跛行の原因に腰部脊柱管狭窄症があります。重症例では手術も検討されますが、多くはリマプロスト(オパルモン®)やプレガバリン(リリカ®)などの薬物療法が行われます。今回は、漢方治療が奏効した腰部脊柱管狭窄症の症例をご紹介いたします。
症例
症例は74歳男性です。2年前に両下肢のしびれと疼痛を自覚するようになりましたが、放置していました。2年後の5月に症状が悪化し、近くの整形外科を受診したところ、腰部脊柱管狭窄症と診断され、リマプロストを処方されました。しかし7月になるとさらに悪化し、400mの歩行で間欠性跛行が出現するようになったため、大学病院を受診しました。MRIを撮影しましたが、手術適応はないと診断され保存的に経過をみる方針となりました。この症状と一生付き合っていかないといけないのかな、と半分諦めかけていたところ、友人に紹介され12月に当科を受診しました。
体格は中肉中背で、バイタルサインに異常を認めませんでした。問診では、寒がりで腰から下が冷え、温めると疼痛は軽減するとのことでした。また、口内の乾燥感、精力減退、遅延性排尿、夜間尿も認めました。お腹の所見では、按圧に対するお腹の反発力が上腹部と比べて下腹部で弱い「小腹不仁」を認めました。
症状・所見からの判断
以上の症状や所見は、全て「腎虚」によるものと考えられます。腎虚とは、漢方医学的な「腎」の機能が低下した状態のことです。「腎」は生まれながらに親からもらった生命力が宿るところで、その働きは年齢と共に弱くなります。つまりこの方の疼痛は、加齢とともに「腎」の気が衰えることによって出てきた症状と考えました。
そのため、「腎虚」に対する代表的な方剤である八味地黄丸を選択しました。10日後の再診時に「前回は杖をついてきたが、今日は駐車場から杖なしで来ることが出来た」、1ヶ月後には、「600mくらい足が痛くならずに歩けるようになった。羽田空港でも休憩を取らずに歩くことが出来た」と効果を実感されました。2ヶ月後には1,600m、3ヶ月後には2,000mと休まずに歩ける距離は徐々に伸び、ゴルフも歩いて18ホールを回れたと喜んでいました。
八味地黄丸の適応
八味地黄丸が適応となる症状には、排尿異常、下半身優位の冷えもしくは足底のほてり、腰や下肢のしびれ・疼痛、口内の乾燥感、精力減退、視力障害、聴覚障害、慢性呼吸器症状などがあります。このような症状で困っている方がいらっしゃったら、八味地黄丸を試してみてはいかがでしょうか。ただし、八味地黄丸は胃もたれなどを来たすことがありますので、胃腸症状をきたしやすい方への投与には注意が必要です。
他に腰部脊柱管狭窄症に使う漢方薬として桂枝加苓朮附湯、疎経活血湯、苓姜朮甘湯が挙げられます。以下にポイントをお示ししますのでご参照ください。
桂枝加苓朮附湯
冷え症で比較的体力が低下している人に用いる。冷えや雨天で痛みが増悪する傾向がある。
疎経活血湯
体力中等度で冷えをあまり認めない場合に使用される。皮膚の枯燥やこむら返りを伴うことがある。
苓姜朮甘湯
比較的体力が低下している人で、腰から大腿部にかけて冷えて重だるく感じる場合に用いる。疲れやすさを伴いやすいが、一般的に口渇は認めない。