医療関係者の皆様へ

こんなときには漢方

ノロウイルスに黄芩湯(おうごんとう)

 寒くなりました。風邪にインフルエンザ、ノロウイルスなどの感染症が流行る季節が到来しました。今回はノロウイルスの嘔吐下痢症(おうとげりしょう)に黄芩湯を紹介したいと思います。

症例

吐き気
 T さんは50 歳代の女性です。漢方診療科では主に冷えや便秘、関節痛などの治療中でした。
 ある年の年末の夜中に突然の嘔吐下痢が出現し、救急外来を受診後に入院しました。体温は38.1℃でした。自覚症状ではだるく体が重い、頭痛がある、食欲はない、喉が渇き冷たいものが口当たり良い、水様性下痢が16 回もあり尿は減っていましたので点滴治療(4リットル/ 日)も併用しました。嘔気(おうき)嘔吐(おうと)もあり、心窩部痛(しんかぶつう)、肛門の疼痛も伴いました。下痢の便臭はやや臭い。脈は弓弦(ゆみづる)を張ったような緊張のあるやや強い脈で、心窩部と両側肋骨の下の抵抗と圧痛を認めました。
 発熱、嘔吐、下痢、腹痛を目標に黄芩湯を煎じ薬で開始したところ、翌日には嘔気は消失し、解熱し、下痢は2回/ 日に減少しました。脈も緊張が緩みました。黄芩湯の服用は3日間で治療終了しました。

黄芩湯の処方について

 黄芩湯で、さらに嘔気が強い場合は、黄芩湯エキスと小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)エキスを一緒にお湯に溶いて服用すると対応出来ます。
 下痢にも熱が主体のものと冷えが主体のものに別れます。ノロウイルスは熱が主体の下痢で、発熱、嘔気、腹痛を伴うものに大変有効です。以前、高齢者施設でノロウイルス感染症が多数発生したときにも黄芩湯エキス投与を行い、黄芩湯の治療効果をまとめたことがあります。
 1回の服用で治癒したものが0%、3回の服用で治癒したものが75%で、55%が24 時間以内に症状が消失しました。
 冬の嘔吐下痢症、ノロウイルス感染症には黄芩湯がお勧めです。

嘔吐下痢症の漢方治療
黄 芩 湯(おうごんとう):発熱、腹痛、嘔吐、下痢。ノロウイルスの第一選択薬。
五 苓 散(ごれいさん):喉の渇き、少し汗ばむ傾向、尿が少ないのを目標に。
      小児のロタウイルス感染症に有効。微温湯に溶かして注腸することもある。
葛 根 湯(かっこんとう):首や肩のこわばりを伴う場合の下痢に。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):心窩部痛や心窩部のつかえがあり、
      腹鳴があってお腹がゴロゴロとなる場合に。