こんなときには漢方
霰粒腫に排膿散及湯
眼瞼に出来やすい病変で、霰粒腫というものがありますが、皆様ご存知でしょうか?今回は、その霰粒腫の症例を2例紹介いたします。
症例1
1例目は6歳男児です。2ヶ月ほど前から左上眼瞼の結節を認めていましたが、麦粒腫と思い放置していました。しかし改善しないため眼科を受診したところ、霰粒腫と診断されレボフロキサシン点眼薬を処方されました。処方時に、「感染を伴っていれば、点眼薬で多少小さくなるが消えることはなく、完治には手術が必要」と言われました。実際に点眼を行っても改善せず、漢方外来を受診されました。患児は中肉中背で、全身状態は良好でした。左上眼瞼中央部に3~4mm程度の発赤を伴う結節を認めました(図1a)。漢方医学的な診察でも、特徴的な所見を認めず、慢性期の化膿性炎症に使われる排膿散及湯エキスを1包・分2朝夕食前で開始しました。すると徐々に結節が縮小し始め、8日後には、図 1bのように消失しました。
症例2
次の症例は、1例目男児の4歳になる妹です。兄が霰粒腫になってから約1年後、左上眼瞼の隆起が出現しました。眼科では麦粒腫と鑑別するために、レボフロキサシン点眼薬を処方されましたが改善せず、圧痛が無いことと点眼薬が無効であることから霰粒腫と診断されました。母親は兄と同様に漢方治療をしたかったのですが、「絶対飲まない!!」と拒否されたため、数ヶ月間放置していました。しかし幼稚園に通いだし、担任から「おめめはどうしたの?」と尋ねられたことを契機に漢方治療を希望するようになりました。
左上眼瞼中央部に6~7mm程度の円形で硬い腫瘤と眼瞼皮下の発赤を認めましたが(図 2a)、可動性や圧痛は認めませんでした。兄と同様に全身状態良好で、漢方医学的にも特徴的な所見に乏しく、先例に基づき排膿散及湯を選択しました。漢方薬をはじめて内服するため、慣らすために、排膿散及湯エキス1/4包を分1で開始したところ、2日後には上眼瞼から露出し、膿点を形成しました(図 2b)。その翌日に排膿し(図 2c)、漢方薬内服後16日で、ほぼ消失しました(図 2d)。
排膿散及湯の注意点と効果
排膿散及湯は、化膿初期または炎症が緩やかな場合に使用される排膿湯と化膿後期もしくは炎症湿潤が 強い場合に用いる排膿散を合わせた処方です。そのため局所に発赤、疼痛、腫脹を伴った化膿性の疾患(皮膚疾患、副鼻腔炎、中耳炎、乳腺炎など)に広く使用されています。しかし甘草を多く含むため、長期に使用する際は偽性アルドステロン症に注意が必要です。
一方、霰粒腫は麦粒腫と外見上似ていますが、麦粒腫が急性化膿性炎症であるのに対し、霰粒腫は慢性肉芽腫性炎症という違いがあります。霰粒腫は保存的治療で効果が認められず、手術の適応となることも多い疾患です。しかし今回の症例のように、数ヶ月改善せず、手術の適応と考えられた霰粒腫が、排膿散及湯の内服により比較的短期間で消失することもあるため、霰粒腫に対して試みてよい方剤ではないかと思います。