医療関係者の皆様へ

こんなときには漢方

ストレスによるめまいに柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

 今回は、ストレスによるめまいに漢方治療が奏効した症例をご紹介します。

症例

めまい
 症例は30代の女性です。4週間ほど前から急に首から両肩にかけての凝りとフワフワするめまいが出現しました。きっかけを尋ねましたが、思い当たるものはなく、敢えて挙げるなら、その2週間ほど前に仕事で重いものを持ったとのことでした。耳鼻咽喉科や脳外科、内科で頭部CTや採血、心電図も含めて精査を行いましたが異常を認めませんでした。そこで漢方治療を希望し当科を受診しました。
 身長は小柄でしたが、やや小太り体型で、バイタルサインに異常を認めませんでした。問診では、嫌な夢をよく見る、便は3日に1回程度でした。お腹の所見では、右肋骨弓下を上に向かって指で押し込むと抵抗と圧痛がある「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」を認め、臍の頭側で腹部大動脈の拍動も触知(臍上悸(せいじょうき))しました。夢の内容が、仕事に追われる夢であったので問診を続けると、最近職場の部署が変わり、慣れないために残業が続いていることが判明しました。

処方と経過

 以上の症状や所見から、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を選択しました。内服開始2週間後の再診で、肩凝り、めまい共に8~9割が改善し、本を読むなど下を向く時間が長いと肩が張る程度となりました。さらに4週間後には、肩凝り、めまい共にほぼ消失し嫌な夢も見なくなりました。

(かん)」という考え方

 漢方医学では、めまいは水分代謝が悪い状態(水毒(すいどく))と考えることが多く、五苓散(ごれいさん)苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)真武湯(しんぶとう)などが頻用されます。この3つの方剤については、「漢方あらかると」で何度か取り上げられているため、ここでは割愛させていただきます。今回は、ストレスが関与するめまいについて概説します。漢方医学の考えで「(かん)」というものがあります。肝は現代西洋医学でいう肝臓とは異なり、自律神経を調整する働きがあると考えるため、ストレスや不眠、アルコール多飲などで肝の正常な働きが阻害されると自律神経が乱れ、めまいが生じます。治療は、「柴胡(さいこ)」を含む漢方薬で行いますが、体格が中等度以上の人であれば男女を問わず柴胡加竜骨牡蛎湯、体格が華奢な人であれば男性には柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、女性には加味逍遥散(かみしょうようさん)を用いることが多いです。さらに、めまいが起こるのではないかと不安になっている場合は、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)が有効なことが多く、単独で用いたり、半夏厚朴湯+柴胡加竜骨牡蛎湯というように、柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯、加味逍遥散と併用したりします。めまいを訴えて来院されても、検査で異常を認めない方がいらっしゃいます。
 そのような方で、強いストレスがかかっている場合は、今回紹介した方剤を試してみてはいかがでしょうか?

柴胡加竜骨牡蛎湯
体格は中等度以上で、動悸や睡眠障害(不眠、悪夢など)、神経過敏などの精神症状を伴う。右肋骨弓下を上に向かって指で押し込むと抵抗と圧痛がある「胸脇苦満」や臍の頭側での腹部大動脈の拍動亢進(臍上悸)を認めることが多い。
柴胡桂枝乾姜湯
体格は華奢で、動悸や睡眠障害(不眠、悪夢など)などの精神症状を伴う。軽度の胸脇苦満や臍上悸を認める。
加味逍遥散
体格は華奢で、不定愁訴(ホットフラッシュ、頭痛、肩凝り、動悸、不眠、不安など)を伴う。月経周期・更年期に関連して症状を訴えることもある。胸脇苦満や臍上悸に加え、臍の周りに圧痛を認めることが多い。