医療関係者の皆様へ

こんなときには漢方

めまいと食養生

 今回は、漢方治療により比較的落ち着いていた症状が、漢方方剤を変更していないにも関わらず、突然増悪することがあります。その際は、食事内容を見直すことが大事だと再認識した症例を経験しましたので、ご紹介いたします。

症例

めまい
 症例は60歳代の男性です。浮動性めまいを主訴に、ある年の1月に当科を受診されました。真武湯合苓桂朮甘湯しんぶとうごうりょうけいじゅつかんとうの煎じ薬でNumerical Rating Scale(NRS)2/10程度に改善し経過良好でしたが、1年後の5月に10日ほど前からNRS10/10の強いめまいが続いていると訴えました。
 突然増悪したため、何か契機があるのではないかと尋ねてみると、「ゴールデンウィークにバーベキューをした後から調子が悪い」とのこと。「その時に何かしましたか?」との問いに、「立っている時間が長かったのが悪かったのかなあ?」との返答。本症例に限らず、患者さんは身体に悪いことをしていても、悪いと意識していないため、こちらが聞きたいことをなかなか話してくれません。「他には?」としつこく尋ねてやっと、「そういえば、ビールを沢山飲みました」。それをきっかけに問診を続けたところ、「暖かくなり冷たい飲み物(ビール、アイスコーヒー、焼酎の氷入り水割など)をよく摂るようになりました。生野菜や果物は好きで昔からよく食べています」など身体を冷やす食生活が明らかになりました。
 そこで漢方方剤を変更せずに食生活の指導を行ったところ、めまいは5日後にNRS 2/10に改善し、数ヶ月後には消失しました。

食養生について

 飯塚病院では難治性疾患に対して和漢食治療を行っていますが、和漢食を外来で継続することはなかなか難しいです。しかし我々は食物の陰陽を患者さんに認識していただき、陰性食品の過剰摂取を控えるだけで症状が軽快する例を経験していますので、安定していた症状が突如再燃した際は、食生活の変化に注目する必要があると思われます。
 下記に体を温める食材(陽性食品)や体を冷やす食材(陰性食品)について一覧を掲載いたします。また、めまいに頻用される漢方薬である真武湯しんぶとう苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう五苓散ごれいさんについてもポイントをお示ししますのでご参照ください。さらなる詳細は、南山堂から出版されている雑誌『治療』のVol.98 No.7「総合診療医・漢方医 コラボ企画 手強いコモンディジーズ」内に記載しておりますので、ご興味がある方はご覧ください。

体を温める食材
(陽性食品)
● 火を通した食べ物(煮物)
● 天日に干したもの(干物、昆布、きくらげ、かんぴょう、干ししいたけ)
● 漬物(古漬)
● 温かいもの
体を冷やす食材
(陰性食品)
● 生もの(生野菜、果物、刺身など)
● 冷たいもの(牛乳、ジュース、アイスクリーム、氷菓子、氷水)
● 砂糖(ケーキ、あんこ、飴玉)
● 酢(酢の物、健康食品としての酢など)

処方のポイント

苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう
立ちくらみに用いる。足は冷えるが手はあまり冷えない「冷えのぼせ」があることが多い。

五苓散ごれいさん
回転性めまいに用いる。体に冷えが無いため、手も足も冷えないことが多い。

真武湯しんぶとう
浮動感など非回転性めまいに用いる。全身に冷えがあるため、手も足も冷えることが多い。

以上で効果に乏しい時は、冷えがあれば真武湯と苓桂朮甘湯の併用、冷えがなければ五苓散と苓桂朮甘湯の併用を行う。