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漢方の基礎知識

六経分類…病期の分類

太陽病(たいようびょう)…病気の初期段階
太陽病

 「風邪は万病のもと」と言われますが、風邪症状が大病の前駆症状であったり、風邪を契機に悪化する病気も多くみられます。
 風邪の初期症状は悪寒、頭痛、発熱、鼻水、咽痛などで、これらは身体表面の症状と言えます。人の身体をちくわに例えて、口から入ってお尻に通じるようなものと考えてください。風邪の初期症状は表面、ちくわで言うと表面の皮の部分が病気の主戦場と言えます。これを漢方では「表(ひょう)」に病変があると考えます。

 表の症状には他に、関節痛、しびれなどがありますが、一般に身体の上半身、あるいは背面の方が強いようです。これは人がまだ四つん這いの動物だったころ、一番外側でお日様に当たる部分が頭から首筋、腰にかけての部分だからだと説明されています。病気の初発で、「陽(よう)」の状態であり、表に病気の中心があるとき、「太陽病(たいようびょう)」期にあると言います。「太古の昔」と言うように、「太」には始まりという意味があり、「太陽」では陽の始まりを意味します。

 風邪には「葛根湯(かっこんとう)」が有名です。一般的な風邪症状に加えて、首のこりにもしばしば用いられます。風邪に対してエキス剤を処方された時には、身体を温めて発汗を促す目的がありますので、必ずお湯に溶いて服用してください。

陽明病(ようめいびょう)…全身が熱で満ちた状態
陽明病

 赤ら顔で暑がり、のどが渇き、しばしば流れるように汗が出ると訴える方がいらっしゃいます。病毒の勢いが強いと表から身体の内部、すなわち消化管(腹)へと侵入します。病気の初期は、体内の抵抗力も旺盛なため病毒と抵抗力は激しくせめぎ合い、典型的には高熱を発し、便秘をしてお腹がはって、新陳代謝が亢進した「陽(よう)」の状態となります。この「陽」の状態が極期となり、全身が熱で満ちた病期を「陽明病(ようめいびょう)」と言います。

 身体表面から入った病気が消化管=裏(り)まで進行して著しい闘病反応を呈して、身体は中心から熱に満たされた状態になるわけです。抗生物質もない時代には、一種の闘病反応としてこうした高熱はよくあったと思うのですが、現代では医学の発達により少なくなりました。それでも体温調節を司る甲状腺が過剰にホルモン産生を行うことによって、体温上昇などを呈する甲状腺機能亢進症などの病気では同様の状態をみることがあります。現代には良いお薬がありますので、甲状腺機能亢進症をあえて漢方のみで治療する必要はありませんが、ホルモン異常のない「燃えている」方には漢方治療はよい適応です。

少陽病(しょうようびょう)…病気の停滞
少陽病

 一般に、急性の病気の初発は悪寒、頭痛などの「太陽病」から始まり、高熱が持続する「陽明病」にいきなり進行することもありますが、多くは咳、口が苦い、食欲不振、倦怠感などの上半身から上腹部を中心とした症状を呈することが多いようです。この亜急性から慢性炎症の時期は「少陽病(しょうようびょう)」と呼ばれ、口、咽の辺りから胸、上腹部の症状が主となります。

 少陽病期は闘病反応の中心が「表」(ひょう)と「裏」(り)の中間にあるということで、「半表半裏(はんぴょうはんり)」と呼ばれます。しばしば舌の苔が厚くなる時期に一致します。フラフラしたり、食欲が無くなって、咽が渇き、微熱を呈するようになるのは少陽病期の症状の典型なのですが、漢方医が診る機会の多い慢性疾患では、陽証の反応を呈する多くの症状が、この少陽病の病像と一致します。少陽病期はまるで川の流れがよどむ淵のように病気が停滞する時期と言えます。

 少陽病の中心的な治療薬は「柴胡剤(さいこざい)」と呼ばれる、「柴胡(さいこ)」と「黄芩(おうごん)」という生薬を主力とする抗炎症剤です。柴胡剤はさまざまな慢性炎症に応用することができる他、ストレスからくる倦怠感、不安感、頭痛、肩こり、目の疲れ、食欲不振など、現代のストレス社会では必須の方剤群と言えます。

太陰病(たいいんびょう)…症状が長引いて冷えた状態
太陰病

 高熱が身体深部、すなわち「裏」にこもる病態は陽病の極、陽明病(ようめいびょう)と考えられるのですが、いつまでも続くものではありません。病気が長引くと陽性熱性であった病態も冷えてきます。
 打撲して最初は真っ赤に腫れ上がっていたところも、時間とともに腫れや熱はひき、季節の変わり目や天候の変化でシクシク痛むようになるということをご経験でしょう。こういう時期は「陰病(いんびょう)」に移行したばかりのところで、「太陰病(たいいんびょう)」と言います。

 「太陰病」は陰病ですので、症状も沈んだ感じで勢いがなく冷えた感じがあるのですが、陽病から移行してきたばかりですので、まだ陽病の雰囲気を多分に残しています。病変の中心は裏(=消化管)にあり、主な症状は腹痛、腹が張る、下痢、便秘等と、主症状はお腹を中心として冷やすと悪化します。

少陰病(しょういんびょう)…全身に倦怠感・冷えが生じた状態
少陰病

 病気やストレスが身体にダメージを与え続け、抵抗力が無くなると、代謝が低下して身体は冷えていきます。冷えは「内臓=腹」の新陳代謝の低下をきたし、それに伴う機能障害による腹部を中心とした諸症状を呈しますが、その冷えが全身に及ぶと倦怠感、冷えとなって現れ、「少陰病(しょういんびょう)」と呼ばれます。太陰病の患者さんに比べて、より元気が衰えていますので、身体はきついはずなのですが、訴える気力も低下していますので、訴え方はマイルドで、見た目の重篤感が軽く感じることもあり、「困するといえど窮することなし」とも言われています。

 現代医学では冷えの概念が十分認知されていませんので、「原因不明で、うちの科ではない」と言われることもあります。強い倦怠感は抑うつ症状を生み出し、現代医学ではしばしば抗うつ薬や抗不安薬を投与することになるのですが、漢方外来を訪れた方は、「乾姜(かんきょう=生姜を蒸して干したもの)」や「附子(ぶし=トリカブトを熱処理したもの)」を使って身体を温め、新陳代謝を鼓舞させることが出来ます。症状がひどいときは「烏頭(うず=トリカブトを熱処理していないもの)」という温熱産生力のより強い生薬も使いますが、これは副作用も十分注意しないといけませんので、漢方の専門医の診察が必要です。

厥陰病(けっちんびょう)…冷えと熱感のWパンチで危険な状態

 打撲をした時の急性期は赤く腫れても、慢性期には冷え込むと痛みが強くなるように、病気の初期は温熱産生が盛んですが、長引くと冷えていきます。病態が寒性となり、それがさらに一歩進んだ冷えの極致を「厥陰病(けっちんびょう)」と言います。世間では内臓肥満・メタボリックと声高に言われていますが、漢方医は「内臓の冷え」を恐れています。厥陰病の本体は冷えですが、一見して熱候を見せ、陰陽錯雑となることがあります。消える寸前のロウソクが一瞬強く燃えるように、これはかなり危険な状態です。

 現代医学では「冷え」という概念が希薄なため対応困難ですが、漢方では生姜を蒸して乾した「乾姜(かんきょう)」で身体の芯から温めていきます。「乾姜」は辛いのですが、「茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)」も身体に合っていると甘く感じます。もっと冷えがひどいと「通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)」というお薬を使います。難治な慢性疾患では、まずは内なる冷えを治療してはじめて、通常の治療が可能となるということが、しばしば経験されます。