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冷え

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西洋薬で冷え性に効く薬はない?!

冷え症

 “冷え性”といって病院にかかっても、西洋医学ではなかなか薬は出してもらえないと思います。どうしても!という方は自律神経失調症などの診断で安定剤を処方されたり、冷えて痛ければNSAIDsなどの鎮痛薬、おなかが冷えて下痢をした場合には整腸剤を処方されたりといったことになるのではないでしょうか。
 漢方医学では“冷え”を1つの病態として考えます。つまり西洋医学では治療の対象とはみなされない“冷え性”は漢方薬で治療可能なのです。

 60代の男性。長年糖尿病を患っていましたが、数年前に心臓の手術を受けた後から冷え性がひどくなりました。夏でも長袖、汗をほとんどかかない状態で、熱い風呂を好みます。八味地黄丸(はちみじおうがん)の内服を開始したところ、冷え性の自覚は改善し、夏は半袖を着るようになり、汗も出やすくなりました。

漢方的“冷え症”の治療

漢方薬

 漢方では冷え性といった場合、まずは全身が冷えているのかどうかを判断します。顔が青白い、足が冷えるなど冷えの症状の他、入浴して温まると気持ちがいい、冷房にあたると調子が悪いといった寒熱刺激に対する身体の反応を確認します。一方、足は冷えるものの風呂で温まると逆に顔がのぼせてしまって調子が悪くなるタイプ、手足の末梢を中心に冷えを自覚しているタイプに対しては、また異なる処方を考えます。風邪などでゾクゾク寒気がするという悪寒は、冷えとは別物です。

 全身の冷え性に対して一般的に使用される漢方薬について以下にまとめます。

全身性の冷え症に対する漢方治療
八味(はちみ)地黄(じおう)(がん) 下半身、特に膝から下が冷える、夜間尿が多い、浮腫、腰痛
苓姜(りょうきょう)(じゅつ)(かん)(とう) 腰まわり、大腿がスースー冷える、腰痛
大建(だいけん)中湯(ちゅうとう) おなかが冷える、腸異常蠕動、下痢・便秘いずれにも使える
人参(にんじん)(とう) 胃腸が弱い、食が細い、みぞおちのあたりが冷たい、下痢
(しん)()(とう) 疲れやすく血色が悪い、めまい、浮腫、水様の下痢

“冷え”と“食事”は関係している

 冷えは、食事にも関与しています。和漢食(玄米菜食の治療食)では身体を温める食材である陽性食品の摂取が大切と考えます。例えば、火を通した食べ物、天日に干したもの、漬け物、温かいものなどです。寒い時期、寒い土地で採れるもの、ゆっくり育つもの、根菜類などが陽性食品です。一方、生野菜、果物などの生もの、冷たいもの、砂糖、酢などは摂取することで身体を冷やすので陰性食品と言われます。冷え性の方にはこれらの摂取を控えてるよう、お勧めしています。

身体を温める食べもの、冷やす食べもの

 冷え性の方にはまずは食事から意識するようお勧めしてみてはいかがでしょう。
 また、運動不足も冷えの原因の1つです。
 ひどい冷え性でお困りの患者さんがいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

冷えには新陳代謝を鼓舞させる

体のだるい人

 体のだるい人が増えています。病院で検査をしても何も異常がない、うつ病ではないかと心療内科などを紹介されるケースも多いかと思います。
 病気やストレスで抵抗力がなくなると、身体は代謝が低下して冷えてきます。初期は「内臓=腹」の冷えとそれに伴う諸症状(太陰(たいいん)病)ですが、冷えが全身に浸透すると全身倦怠(けんたい)感、全身の冷えとなって表れます。
 現代医学では原因不明でも、漢方外来を訪れた方は、「乾姜(かんきょう)」(ショウガを蒸して干したもの)や「附子(ぶし)」(トリカブト)を使って体を温め、新陳代謝を鼓舞させることが出来ます。

 60歳の女性。30歳ごろからめまい感があり、まるで雲の上を歩いているような感覚がありました。疲れやすく、身体がだるく、全身に冷えを感じていました。「真武湯(しんぶとう)」を処方したところ、約4週間で長年のめまい感と冷えが消失しました。
 真武湯は元々、「玄武湯(げんぶとう)」といいました。玄は黒色の意味で、玄武は亀と蛇の姿でかたどられる北方の守り神です。附子の黒い色と冷えを温める作用が北方の神と一致して「玄武湯」と名付けられたとのことです。北方を示す黒は、相撲の黒房などに使われています。

体を温める生薬

体を温める

 冷えにはトリカブトを熱処理した「附子(ぶし)」を含む処方が効果的です。トリカブトは元々毒ですので、注意が必要なのですが、冷えの多い現代人にはなくてはならない生薬です。
 患者さんは寒さのあまり重ね着で、それは十二単(じゅうにひとえ)か玉ねぎか。体中にカイロを張り付け、靴下は2枚履き、おなかの診察をしようとすれば、服をめくって一種の発掘作業です。冬季は「附子」を増量することが多いのですが、寒い季節は気候の変化と症状をにらみつつ減量する必要があり我々漢方医の腕の見せどころです。

 50代の女性。冷水などの刺激で指先が真っ白になるレイノー症状で来院しました。「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」を処方したところ、夏の冷房は乗り切りました。ところが、冬になってやはり白く冷たくなるとのこと。「附子」を加えたところ、冷えは緩和し、夜、トイレに起きると、その後、足が冷たくなって眠れなかったのも良くなりました。

体を温める漢方薬

 打撲傷が、急性期に赤く腫れても慢性期には冷たくなるように、病気初期は温熱産生が盛んですが、長引くと冷えていきます。病態が寒性となり、冷えが全身に及んだのが少陰病(しょういんびょう)ですが、それがさらに一歩進んだ冷えの極致を厥陰病(けっちんびょう)といいます。
 厥陰病の本体は冷えですが、外見上熱候を見せることがあります。消える寸前のロウソクが一瞬、強く燃えるように、これは危険な状態です。ところがこういう危険な状態の方が、時折、外来に歩いて来られます。

身体がとてもだるくて勉強できない

 10代の女性。大学受験前の11月、体がとてもだるくて勉強できないと受診されました。血液検査では異常は認められません。一見、顔色は良いのですが、脈が極端に弱く、手足に触るととても冷えています。「茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)」という身体深部から温める漢方方剤を処方したところ、徐々に元気を取り戻し、無事、志望の大学に合格しました。
 現代医学では、冷えという概念が希薄で、対応が困難ですが、漢方ではショウガを蒸して乾した「乾姜(かんきょう)」で身体の芯から温めていきます。私も研修医時代、忙しくて身体が冷えてしんどい時には「茯苓四逆湯」をこっそり飲んだものです。「乾姜」は辛いのですが、「茯苓四逆湯」は身体に合っていると甘く感じます。

隠れた「冷え」の見つけ方

しょうが

 学生時代に運動部で鍛え一見頑丈そうな方でも、実は中身が冷え切って冷凍状態という場合があります。氷山の一角のように表に見える病態を治療してもうまくいかないことがあり、そんな時潜んだ冷えの病態=虚寒証(きょかんしょう)=を疑います。見えにくい病態のため、潜証(せんしょう)と呼んでいます。
 凍った魚にいきなり包丁を入れようとしても刃が立たないように、まずは解凍が必要です。温めるのには「附子(ぶし)」(トリカブト)や「生姜(しょうが)」を蒸して乾した「乾姜(かんきょう)」を主体とした治療を行います。食べ物や生活環境・習慣の変化で、潜証の方が増えています。

 40代の男性。皮膚疾患で入院されました。顔色もよく、冷えなどなさそうなのですが、よく話を聞くと、冷えやすい、下痢しやすい、疲れるなど冷えが隠れているようです。温める極みの「通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)」をまず投与したところ、疲労感などは消失しました。  潜証を発見するために、問診表などを利用して隠れた冷えがないか調べます。顔色はいいのに手足が冷えやすい、普段から果物などの冷やす食べ物をよく食べている、症状が冷えると悪化するが温めると改善する、などが大切なサインです。