主な病気・疾患について
- 肺高血圧症
肺高血圧症とは
肺高血圧とは、肺動脈圧が上昇した病態を指します。肺動脈は性質上、血圧が上昇しにくいのですが、なんらかの原因で肺動脈、肺血管床に広い障害が生じた場合に肺動脈圧が上昇します。合併した病態や病期の進行具合にもよりますが、息切れ・失神の原因となり、適切な治療が行えなければ進行性・予後不良の病態です。
肺高血圧症は肺高血圧を示す疾患群であり、大きく「肺動脈性肺高血圧症」「左心疾患による肺高血圧症」「肺疾患および/または低酸素による肺高血圧症」「慢性血栓閉塞性肺高血圧症」「その他の原因による肺高血圧症」の5群に分けられます。
現在に至るまで多くの薬剤、内科治療、外科治療がなされるようになりました。特に肺動脈性肺高血圧症は循環器疾患において、この20年で最も予後の改善を得ることに成功した分野と言えます。日本は世界的にも先進治療がなされており、多くの研究、臨床成績が報告されています。
主な症状
労作時呼吸困難感、息切れは初期症状として最も多く、他にも倦怠感や疲労感、胸痛や失神を呈することがあります。進行すると「右心不全」というタイプの心不全症状が顕性化し、倦怠感や浮腫、食欲低下などが出現します。
特異的な症状がないことから、年齢や他の体調不良と自己判断されることも多く、症状の出現から診断までに数年を有することもあります。
主な診療の流れと治療法
- スクリーニング
肺高血圧症の早期診断は比較的困難です。強い症状を有する病期からの治療介入後の予後は未だに良くありません。そのため、軽度から症状を有する方はもちろんですが、リスクの高い患者さん(膠原病や先天性心疾患術後など)にはスクリーニングを実施しています。また、膠原病・リウマチ内科や皮膚科、形成外科など、血管病を呈する疾患を診療している科と連携し、主に心エコーによる肺高血圧のスクリーニングを実施しています。
- 診断
他の合併疾患の精査を行いながら、肺高血圧症の疑いがある患者さんに対しては入院の上、心臓カテーテル検査を実施します。肺血流シンチ、造影CTなどを行い、病態評価、原因精査を実施し、治療の必要性について検討します。
- 治療
病態、病状次第で薬物療法(肺血管拡張薬など)、必要に応じて酸素投与を行います。重症例では点滴による薬物治療が開始されます。基本的治療方針として、早期から2剤以上の薬物の併用(Upfront combination therapy)を行います。
呼吸器疾患由来が疑われた場合は、呼吸器内科と連携して診療を行います。肺線維症や慢性閉塞性肺疾患による肺高血圧症には適切は肺疾患に対する治療介入が必要となります。
慢性血栓閉塞性肺高血圧症に対しては、適切な薬物療法に加え、外科治療、カテーテル治療が計画されます。近年、カテーテル治療(肺動脈形成術)の進歩が目覚ましく、早期に所見・症状の改善を認め、生命予後の改善も期待されています。九州では2つの実施施設がありますが、当院からは主に九州大学病院での治療をお勧めしています。当院は救命救急センターを併設しており、重症肺高血圧症に対し、速やかに補助循環を用いた循環、呼吸管理、積極的な薬物療法を行います。また、九州大学病院:肺高血圧チームとの連携が強固です。重症例、難治例については積極的な相談や転院加療を行うことで、最新、最適な治療を実施します。
- 追跡
- 肺高血圧症は前記の通り、目覚ましい進歩を遂げている分野であり、薬物療法の選択肢も次々に増えているのが現状です。最適な薬物療法を実施すべく、定期的な外来診療を実施します。
地域の医療機関へ向けて
前記の通り、現時点では早期診断・早期治療介入が最も症状・予後改善に期待できる方法です。肺高血圧症は、まず疑うことから診療が開始します。このため、原因不明の倦怠感や息切れが一ヶ月以上続く場合や、レントゲンで心拡大が認められる場合などは、積極的にご紹介ください。