主な病気・疾患について
- 下肢静脈瘤
下肢静脈瘤とは
血液の流れには、心臓から出て行く動脈と心臓に戻る静脈とがあります。足の静脈では足から心臓に重力に逆らって血液を戻す必要があるため、内部には心臓から足への血液の逆流を防止する弁があり、これによって血液は一方通行になります(図1)。静脈瘤とは、この静脈弁が上手く働かなくなることで足の静脈に血液が溜まってしまい(うっ滞)、静脈が膨れて(伸展・屈曲・肥厚)しまう病気です(図2)。
静脈瘤の原因としては、静脈の壁や弁の機能不全に起因するもの(一次静脈瘤)と深部静脈の還流障害が原因で起こるもの(二次静脈瘤)があります。
男女で比較すると女性の患者さんの方が多く、男性の2~4倍の頻度で発症します。女性は20~30歳代、男性は40~50歳代での発症が多いとされています。年齢と供に、血管組織の老化によって逆流防止弁の機能不全が起こるため、年齢と共に頻度は増える傾向にあります。
女性の場合、下肢静脈瘤の40~50%が妊娠を契機に発症し、出産回数が増えるほどリスクが増すとされています。妊娠による循環血液量の増多や胎児による下腹部の圧迫が原因とされており、女性ホルモンが関与することも報告されています。また、長時間立ち続けるような仕事(店員・美容師・調理師・教師・看護師など)をされている方がこの疾患にかかりやすいと言われています。また遺伝的要因も挙げられており、母親に静脈瘤がある方の場合はその子ども、特に娘さんに静脈瘤ができやすいとも言われています。
検査
診察や下肢静脈の超音波検査を組み合わせて診断し、治療方針を決定します。超音波検査は身体の表面から内部の静脈の血液の流れや逆流をみるもので、痛みもなくレントゲンのような被曝の危険性もありません。
主な症状
見た目(血管がクモの巣や網目のように広がったり、ふくらはぎや太ももの血管が浮き出たり・膨らんで目立つ)の問題に加えて、足に血液が溜まる(うっ滞)ことでさまざまな症状を引き起こします。主な症状としては、足のむくみや重さ・だるさなどがあります。起床時は症状が軽くても、長時間立ち続けていた後や午後から夕方にかけて症状が悪化します。寝ている時に足がつる(こむらがえり)こともあり、さらに病気が進行すると皮膚の炎症を起こし、湿疹や黒っぽい変色(皮膚のしみ)、皮膚のただれ(潰瘍)や出血などが起こることもあります。
主な治療法
下肢静脈瘤の治療方法としては、保存的治療(圧迫療法)と手術治療があります。
保存的治療(圧迫療法)
弾性包帯や弾性ストッキングを着用して患肢を圧迫することで表在静脈の拡張が押さえられ、血液の逆流が減少し、症状の改善が得られます。
この治療のメリット
- 低価格(3,000~5,000円程度)
- 履くだけなので、日常生活の中で続けられる
- 手術の必要がない
注意点
- 保険適用外
- 履いている間しか効果がなく、中止すると症状が再発する
- あくまで静脈瘤の進行予防と症状コントロールのための方法であり、静脈瘤自体は治らない
- 履くのが大変で、夏は暑い
弾性ストッキングに関しては、それぞれの患者さんの症状や状態に適するさまざまなタイプがありますので、 心臓血管外科医師または弾性ストッキングコンダクター(福村看護師)にご相談ください。
手術治療
硬化療法、ストリッピング手術、血管内レーザー焼灼術があります。
- 硬化療法
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「硬化剤」という薬剤を静脈瘤内に注入し、圧迫することで静脈を閉塞させる治療法です。網目状や、くもの巣状などの比較的小さな静脈瘤や他の治療で残った静脈瘤等には有効ですが、伏在型等の大きな静脈瘤に対しては単独では再発率が高く、後述のストリッピング手術や血管内焼灼術等の外科的処置と併用が必要です。術後、数ヶ月間は色素沈着(皮膚が黒ずむ)を起こす場合があります。
- ストリッピング手術
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小切開で治療対象の静脈内を露出させて、「ストリッパー」というワイヤーを通し、血管を結びつけて抜去する手術です。 この術式は、下肢静脈瘤に対して根治性は高く、再発率が低いことが特徴です。一方、侵襲が大きいため通常は全身麻酔や下半身麻酔(腰椎麻酔)が必要で、入院となることが多いです。手術の傷が残り、血管周囲の伏在神経障害(ふくざいしんけいしょうがい)を来たして下肢の軽いしびれなどが残ることがあります。
- 血管内レーザー焼灼術
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治療対象の静脈内に「ファイバー」と呼ばれる細い管を通し、先端から照射されるレーザー光で静脈を凝固・閉塞させる治療法です。細い針を刺すだけなので傷口が小さく目立たず、全身麻酔も不要です。合併症も少なく、体のダメージが少ない低侵襲な手術のため、入院の必要もありません。熱で焼灼するため術後に皮下出血や違和感や痛みを感じる場合がありますが、ストリッピング手術に比べると軽いものです。手術翌日の診察で問題なければ、車の運転や事務仕事が可能で、家事などの日常生活であれば手術当日から、シャワー浴や立ち仕事も術後3日目から可能です。
2011年から保険適応となり、当院では2012年1月からレーザー治療を、2014年9月からは日帰りでのレーザー治療を開始しております。さらに、2015年からは術後の痛みや皮下出血がさらに少ない1,470nmレーザー装置での治療も開始しました。それぞれの患者さんによって静脈瘤のタイプや程度は異なり、レーザー治療が不向きな方もおられますので、正確な診断を行い適切な治療法を選択することが重要です。血管内レーザー焼灼術に向いている症例、向いていない症例
向いている
- 抗凝固薬{ワーファリン(R) 、
- エリキュース(R)など)や抗血小板薬(バイアスピリン(R) 、
- パナルジン(R) 、
- プラビックス(R)など}を服用している方
- 術後(高位結紮術(こういけっさつじゅつ))の再発の方 ・高度の肥満の方
向いていない
- 対象静脈が太い方
- 解剖学的制約がある方(対象静脈の蛇行や瘤状変化(こぶじょうへんか)があるなど)
専門医師
地域の医療機関の皆様へ
静脈瘤による症状がある方や、「見た目が気になってスカートをはけない」、「温泉に行けない」などお困りの方がおられましたらぜひご紹介ください。特に、皮膚炎を合併されている方は早めのご紹介をお願いします。