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治療法 Pick up

MICS(小切開低侵襲心臓手術)
心臓弁膜症への新たな治療法

対象疾患

心臓弁膜症 (僧帽弁弁膜症[狭窄症、閉鎖不全症]、三尖弁弁膜症[閉鎖不全症])

心房中隔欠損症も同様の方法で手術可能です

MICSとは

 MICS僧帽弁手術は心臓弁膜症、特に僧帽弁疾患に対する術式の改良として主に右側胸部の小切開で行うもので、小さな創で行い、胸骨も切らないため回復も早い術式です。もちろん手術の際に十分な視野は必要ですので、他の外科領域では広く普及している内視鏡を併用して行います。
 通常、心臓手術は胸の真ん中の皮膚、胸板(胸骨)を切開し(図1)、心臓を露出して行います。この胸骨を全く切らずにあるいは半分だけ切って行う手術がMICSです(図2)。
 この手術では創が目立たない、身体への負担が小さい、早期の退院や社会復帰が可能といった利点があります。このため創が目立たないようにしたい方、早く職場へ復帰したい方、身体を動かす仕事をしている方などには向いている手術です。

 当科では2016年より、胸骨を全く切らずに右胸部の肋骨の間から操作する右小開胸アプローチでのMICS僧帽弁手術を行っています。右小開胸は、男性であれば右乳頭の下、女性であれば乳房外側を7cmほど切開し、肋骨を広げて手術を行います。創が小さく、創から直接見える視野が狭い分は内視鏡を使用することで、むしろ胸骨正中切開手術より良好な視野を確保できます。

右小開胸MICSの特徴
利 点
  1. 胸骨の感染、縦隔洞炎が減少する
  2. 出血量、輸血使用量が減少する
  3. 術後呼吸機能の温存、人工呼吸器使用時間が短縮される
  4. 術後入院期間、社会復帰までの期間が短縮される
  5. 創部の美容面が向上する(特に女性)
  6. 心臓再手術時、危険性が減弱する
欠 点
  1. 視野が深くなることで技術的難易度が上がる
  2. 大腿動脈から血液を送ることにより大動脈の動脈硬化が進展している症例では脳梗塞の危険性が増加する可能性がある
  3. 術中合併症が起こった場合、創を延長拡大する可能性がある
万全の体制で行うMICS手術

 もちろん、心臓手術はもとより周術期の死亡リスクを伴う手術であり、そのリスクを下げること、無事に完遂することが第一条件のため、小さな創であっても死亡率が上がるというようなことがないよう、万全の体制で手術を行っています。
 当科では右小開胸MICS手術導入にあたって、以下を守ることで極力安全に手術を施行しています。

  1. 熟練の固定チームスタッフで対応すること
  2. 固定チームスタッフ全員で、既に右小切開MICS手術を導入し安定した成績を収めている施設での研修を行うこと
  3. 当院での手術は、その施設の先生による指導、サポートをいただきながら施行すること
  4. 症例一例ごとを詳細に検討して、MICSに適した症例に限って行うこと

 当科で指導いただいているのは、名古屋第一赤十字病院の伊藤 敏明先生です。伊藤先生はMICS手術の第一人者の一人で、2016年の日本MICS研究会にて会長を務められました。

 当科、麻酔科のスタッフ、看護師、臨床工学技士等も含めたチームでの研修や、手術に際しても全面的にサポートしていただきながら、万全の体制で手術を施行しています。

専門医師

地域の医療機関の皆様へ

 心臓弁膜症の術後ADLを極力温存する術式として、MICS手術は非常に有効です。ただし、体型、大動脈の性状など手術を安全に行うために満たずべき条件もあり、全身状態を詳細に確認させていただいた上で従来の正中切開手術どちらがより望ましいか、判断させて頂いております。もちろん条件さえ合えば70歳代でも十分MICSの適応には成り得ます。ご不明な点があれば何でもご相談ください。

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