主な病気・疾患について
- 心筋症
心筋症とは
「心筋症」は、「心臓の筋肉」の異常によって、心機能が進行性に低下する疾患を総称した病名です。
「心筋症」は大きく以下の3種類の疾患に分類されます。
- 心臓の収縮性が進行性に低下し、心臓が特徴的な拡張を呈する「拡張型心筋症」
- 心筋の肥大が特徴的な「肥大型心筋症」
- 心臓の拡張が高度に障害される「拘束型心筋症」
心筋症の一部は、遺伝子異常やウイルス感染、免疫反応など原因が明らかになっている疾患群もありますが、多くは依然として原因不明のままです。
そのため、心筋症は特定疾患の難病指定を受けており、医療費の補助なども整備されています。かつては、不治の病という印象もあった「心筋症」ですが、有効な薬物療法やペースメーカなどの治療法の進歩によって、以前ほどの怖い疾患ではなくなりつつあります。
主な症状
心筋症は主に心不全の症状が出現します。
軽症例においては、日常生活に支障がないこともありますが、病気が進行するにつれ、息切れや動悸症状・足のむくみ・夜に横になると咳が止まらず息苦しいといった、いわゆる「心不全」の症状が生じます。病気がさらに進行すると、食欲がない、室内歩行もできない、ベッドから離れられない、といった重篤な症状を呈することもあります。
これらの「心不全症状」は、月から年の経過で徐々に進行するのが特徴です。一方で、脈の乱れによって「気を失う」などの急激な経過をとる重篤な症状が生じることもあり、注意が必要です。
診断について
診断は、さまざまな検査にて行います。一般的な採血・レントゲン検査・心電図・心エコー検査に加え、心臓CT・心臓MRI・放射性同位元素(RI)を用いる心筋シンチなどが必要です。また、心臓カテーテル検査を受けていただく必要があります。この検査は入院が必要です。カテーテル検査によって、心臓の血管=冠動脈に狭窄がないことを確認し、さらに心臓の筋肉の一部を採取し、顕微鏡検査を行います。これらの検査で、心筋症の最終診断を行います。主な治療法
かつては不治の病とされていた心筋症ですが、ここ十数年の研究開発により、治療法が確立されてきています
薬物療法
心筋症の治療において最も重要な点は、最適な薬物療法です。
なかでも、ベータ遮断薬やACE(アンギオテンシン変換酵素)阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬は極めて重要な薬剤になります。
ベータ遮断薬(アーチストやメインテート)は、心臓を交感神経刺激から保護し、心不全の進行を予防します。ACE阻害薬(レニベースやタナトリルなど)は元来降圧薬として開発された薬剤で、現在も広く使用されていますが、血圧を下げながら、心臓への負荷を減らし心不全から心臓を保護する作用があります。ただし、ACE阻害薬には空咳の副作用があるため、どうしても服用できない方は、同効のアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)(バルサルタンやカンデサルタンなど)を使用します。
ベータ遮断薬、ACE阻害薬、ARBは、心不全患者の長期予後、特に心不全再入院を減らし、死亡率を改善する、ことが多くの大規模臨床試験で明らかにされています。それ以外にも、アルドステロン受容体拮抗薬(スピロノラクトンやセララなど)の有効性も証明されています。これらの薬剤は、症状に応じて使い分けますので、詳細については担当医までおたずねください。
また、心不全ではむくみ症状が起こります。むくみ症状は、体液量が過剰な状態で生じることが多く、日常生活での体調管理と食事管理が重要です。食事療法等でむくみが改善しない場合は、利尿薬(フロセミドなど)を使用します。
なお、心筋症では不整脈もよく合併します。不整脈のうち問題となるのは、心房細動と心室性不整脈(心室頻拍や心室細動)などの致死性不整脈です。
心房細動は、心臓の中でもタンクの役割を担っている「心房」が細かく震えて収縮しなくなる不整脈です。心房が収縮しなくなるため、心房内に「血栓」が形成されることがあります。また、拡張型心筋症で心臓の動きが極度に低下している場合には、心室内に「血栓」が形成されることがあります。これらの血栓は、脳梗塞など重大な合併症の原因になるため、抗凝固薬(ワルファリンなど)が必要となります。心室性不整脈(心室頻拍など)に対する治療が必要な場合は、抗不整脈薬のアミオダロンを使用し、植え込み型除細動器の植え込みを行い、心臓突然死の予防が必要となることもあります。
ペースメーカ・植え込み型除細動器
ペースメーカは、心拍数が減少による倦怠感や失神症状を起こす徐脈性不整脈に対する治療法です。また、心筋症の一部では、左脚ブロックと呼ばれる心臓内部の伝道障害を合併し、心不全症状がさらに悪化することがあります。左脚ブロックでは心臓の収縮効率が低下するため、両心室ペースメーカによって心臓の収縮効率を改善させます。
また、心筋症では、危険な心室性不整脈を合併しやすいことが特徴です。心室性不整脈は、心臓突然死の原因になりうるため、心室性不整脈の危険性が高い方や、一度でも心室性不整脈で意識を失ったことがある方には、植え込み型除細動器(ICDやCRTD)の植え込みを勧めます。植え込み型除細動器は、AED機能のついたペースメーカです。心室性不整脈が発生すると除細動を発生させて心臓突然死を予防します。当院では、専門外来を毎週月曜日に行っています。また、家庭でのモニタリングを併用させていただき、不整脈の発生・電池切れ・電線の異常がないか毎日観察させていただきます。モニタリングで異常が検知された場合は、ご連絡させていただくことおあります。
弁膜症
心筋症では、弁膜症の僧帽弁閉鎖不全症を合併することがあります。心機能が低下し、左心室が拡大すると、僧帽弁輪が拡大し弁の閉鎖不全が生じます。弁膜症の悪化は心不全症状をさらに悪化させるため、弁膜症が問題になる場合は、開心術で弁の修復や人工弁置換が必要となることもあります。
心臓リハビリテーション
「心臓リハビリテーション」(通称:心リハ)は、心臓病の患者さんの体力を回復し、社会や職場に復帰を支援し、心臓病の再発を予防し、快適な生活を維持することをめざす治療法です。以前は、心臓病の患者さんには安静第一が基本でしたが、安静で体力を落とすことがかえって心臓病に悪影響であることがわかってきました。心臓病でも、適度な運動を継続することが、心臓病の長期予後を改善し、再入院を予防できます。当院でも外来心リハを行っておりますので、ご希望でしたら担当医までご相談ください。
肥大型心筋症に対する特殊な治療
心筋の「肥厚」「肥大」が特徴的な肥大型心筋症の中に、心臓(左心室)の出口が心筋肥厚によって狭くなる疾患があります。出口が狭窄・閉塞するため、「閉塞性肥大型心筋症」と呼びます。閉塞性肥大型心筋症では、左室流出路狭窄の進行に伴って、強い息切れの心不全症状や、ひどい場合には失神を起こすこともあります。お薬で症状が改善しない場合には、
- ペースメーカ植え込み手術
- カテーテルによる分厚くなり過ぎた心筋を減らす治療(経皮的心筋焼灼術 PTSMA)
- 症例は少なくなりましたが、外科的に分厚くなりすぎた心筋を取り除く場合もあります。
心臓移植を含めた高次治療
心不全症状が内科的治療で改善しない場合には、心臓移植の適応について検討し、心臓移植は2006年から保険適応となっており、当院の高次医療機関である九州大学病院 循環器内科と連携しながら、治療適応について検討させていただきます。