TEL 0948-29-8137(外科外来直通)
診療科の特徴
当院は福岡県筑豊地域の基幹病院であり、当科では、「地域がん診療連携拠点病院」として、消化管(食道、胃、腸)、肝胆膵、乳腺等のがん診療の中心的役割を果たしています。各種診療ガイドライン等に沿って、エビデンス(科学的根拠)に基づいた診療を行っています。現在は、「消化管チーム」、「肝胆膵チーム」、「乳腺チーム」に分かれ、各専門医・指導医を中心に専門性の高い医療を提供しています。
また、当院救命救急センターは筑豊地域の救命救急医療の要でもあり、連動して当科も24時間体制で腹部救急疾患の患者さんへの対応を行っています。
なお、当科は各学会が定めた手術数など一定数以上の患者さんの診療を行い、専門医や指導医が在籍していなければ取得できない施設認定を数多く取得しています。
日本外科学会指定施設、日本消化器外科学会認定施設、日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設A、日本肝臓学会認定施設、日本膵臓学会指導施設、日本胆道学会認定施設、日本乳癌学会認定施設、日本臨床腫瘍学会認定研修施設、日本がん治療認定医機構認定研修施設 等
1.診療グループのご紹介
- [1]上部消化管グループ
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上部消化管領域で担当する疾患のほとんどが食道癌、胃癌になります。比較的大きな手術を要するため患者さんに与える影響は大きいものの、周術期管理の向上により安全に施行できるようになってきました。術後少しでも早く回復できるように様々な取り組みを行っています。
その一つとして、従来は開胸や開腹で手術を行っていましたが、“体に優しい[低侵襲=体への負担が少ない]”とされる鏡視下手術、とくにロボット手術も積極的に導入しています(図1)。鏡視下手術は、細かい解剖が確認できることでより精度の高い手術ができるとも言われています。さらに、ロボット手術では多関節機能により腹腔鏡では届きにくいような部位にも到達することでよりきれいな切除ができ、手ぶれが少なく緻密で繊細な手技が可能となります。これにより術後の患者さんの負担の軽減や合併症の低減に寄与することが期待されます。
癌治療では手術、抗癌剤、放射線治療などがありますが、これらを組み合わせた集学的治療は、極めて重要な治療方法の一つです。当院ではこれらの治療に対応できます。手術可能な食道癌に対しては外科切除が標準的な治療とされています。一方で、手術を希望されない方や切除不能な方へは化学療法、放射線療法を単独もしくは併用することで一定の効果が得られることもあり、患者さんの希望によっては非手術療法による根治を目指すことも選択肢として考えられるようになってきました。さらに、近年免疫チェックポイント阻害剤が胃癌、食道癌でも保険適用となり、中には従来考えられなかったような劇的な効果をあげられる症例もあります(図2)。これにより初診時に手術不能でも化学療法後に手術可能となるような症例も散見されます。
上部消化管は食事摂取に直結する領域です。患者さんとの対話を重視して、治療法に選択肢がある場合は、利点・欠点を十分に説明した上で、一人ひとりのライフスタイルにできるだけあう治療方針を決定するように心がけています。可能な限りQOLを保ちながら、癌の根治を目指すべく、関連各科と連携をとりながら最善の治療を提供していきます。胃癌、食道癌をはじめ上部消化管領域の患者さんがおられましたら、ぜひ当院へご紹介ください。文責:診療部長 吉田倫太郎
- [2]下部消化管グループ
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当科は九州でも有数の手術症例数と経験をもとに、常に最良の治療を目指しています。なかでも低侵襲手術に力を入れており、日本内視鏡外科学会の技術認定を取得した専門医が全ての手術に参加いたします。2024年度は他科開腹手術時に同時に手術を行った1例を除いた全例に低侵襲手術による原発巣切除を実施いたしました(低侵襲手術実施率 2022年度 85% → 2023年度 90% → 2024年度 99%)。下部消化管領域では2023年10月からロボット支援下手術を開始し、その施行件数も増加しております(下部消化管ロボット手術数 2023年度 6件 → 2024年度 63件)。
進行癌に対しては化学療法や放射線治療なども組み合わせて、根治切除率の上昇と局所再発率の低下を追求しています。特に直腸癌においては術前化学放射線治療を中心とした集学的治療を行い、肛門温存率の上昇も目指しています。
当院の総合病院としての強みを活かして、心臓や肺などの疾患をお持ちの方や高齢の方に対してもきちんと適応を判断し、各診療科のエキスパートと連携して積極的に手術を行っています。2024年度の最高齢の手術症例は95歳でも自分で歩行のできる元気な方でした。他院で手術・治療が実施できないと言われた方であっても可能な場合もありますので、当科に一度ご相談いただけますと幸いです。文責:診療部長 藤中良彦
- [3]肝胆膵グループ
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肝臓・胆道・膵臓に発生する悪性腫瘍や胆石症を主とする良性疾患に対して専門的で高度な医療を提供しています。当院は九州で17施設、福岡県で7施設(2025年4月時点)が認定されている肝胆膵外科高度技能専門医制度修練施設A(年間50症例以上の高難度肝胆膵外科手術数を施行している)の一つであり、技術と経験を兼ね備えた肝胆膵外科専門医が複数名在籍しています。
特に重視しているのは、「低侵襲手術」の積極的な導入です。腹腔鏡手術や ロボット支援手術をはじめとした低侵襲手術は、従来の開腹手術に比べて傷が小さく(図1)、患者のQOLを向上させるという利点があります。肝胆膵外科領域では、腹腔鏡下肝切除や膵体尾部切除に加え、2023年度より腹腔鏡下膵頭十二指腸切除、2024年度(11月)よりロボット支援下膵切除、2025年度(5月)にはロボット支援下肝切除の施設認定を取得して手術を開始しました。
低侵襲手術の利点である術中拡大視効果によって安全な手術が可能となりましたが、更なる安全性を追求して術中ICG蛍光法を使用しています。腹腔鏡下胆嚢摘出術における総胆管の確認は特に炎症が高度な急性胆嚢炎の際には非常に有用です。また、腹腔鏡下肝切除においても腫瘍を直接視認可能なPositive stainingや、切除すべき区域を正確に同定可能なNegative stainingを使用することでより安全で確実な手術が可能です(図2)。
一方で進行した悪性腫瘍や小開腹創のみでは対応不可能な症例も認めます。その様な症例に対しては、積極的な開腹手術を行います。放射線科と合同で術前血管塞栓を併用した巨大肝腫瘍に対する肝切除や、抗がん剤治療後に血管合併切除・再建を併用することで元来切除不可能であった悪性腫瘍を切除するConversion surgeryなども行なっています(図3)。肝胆膵外科領域でお困りの患者さんがいらっしゃいましたら、是非ご相談いただければ幸いです。文責:肝胆膵外科部長 萱島寛人
- [4]乳腺チーム
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乳癌の診療について
①乳癌初期治療、リスクに応じた治療法選択
初期治療では手術、周術期薬物療法、放射線療法のパッケージで根治を目指した治療が行われます。周術期薬物療法では再発リスクに応じて治療方針を決めています。
再発リスクの評価のために、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌では、OncotypeDXが導入されました。がんの遺伝子発現状況から再発スコア(RS)が計算され、RSが高いと、再発高リスクとして化学療法を上乗せすることが勧められます。検査費用は43,500点と高額ですが、OncotypeDX導入による予後改善、費用節減効果が証明されています。
そのほかにも、再発リスクに応じて、ベージニオやTS1、リムパーザの上乗せが検討されます。また、術前薬物療法後にがんの遺残があった場合は、術後薬物療法を変更するというresidual disease-guided approachも活用されています。②がんゲノム医療の導入
飯塚病院は2025年1月にがんゲノム医療連携病院になりました。がんゲノム医療は、次世代シークエンサーによりがんの多数の遺伝子変異を一度に調べ、専門家会議の推奨を経て、再発がんの薬物療法を選択するというアプローチです。
適切な薬物が投与できる可能性はまだ低いのが現実ですが、乳癌の場合は、PIK3CA/AKT/PTEN経路に遺伝子変異を認める可能性が高く、その場合は、AKT1阻害薬であるカピバセルチブが有効であることが証明されています。
がんの治療は個別化の方向に進んでいます。患者さんのがんの性質を理解すると共に、患者さんの価値観なども踏まえ、多様で柔軟な治療方針の選択を行なっていくことが求められているように思います。文責:乳腺外科部長 岡本正博
2.腹部救急外科
当院は筑豊地域の救命救急医療の要であり、当科も24時間体制で腹部救急疾患の患者さんへ対応しています。他院から搬送される患者さんも多く、上部・下部消化管穿孔、汎発性腹膜炎、腸閉塞、敗血症、急性虫垂炎、急性胆嚢・胆管炎、腸管虚血症など極めて多彩な疾患に対応しています。
3.患者さん並びに地域の先生方へ
前述のごとく、当科は筑豊地域全体から多くの患者さんが受診されます。当科としましても最大限の努力をしていますが、患者さんの外来待ち時間が長くなったり、入院・手術までお待たせしたりすることもあり、私どもも申し訳なく思っています。患者さんやご紹介いただいた先生方にも大変ご迷惑をおかけしており、この場をお借りして深くお詫び申し上げます。
今後も現状の改善に最大限努力してまいりますので、患者さん、ご家族、並びにご紹介いただきます先生方には、ご理解とご協力を何卒宜しくお願い申し上げます。
News&Topics
- 本邦では、患者さんへの体の負担(侵襲)を少しでも減らすため、腹腔鏡下手術が積極的に導入されてきています。当科でも、比較的早期の胃がん・大腸がんに対し、質の高い腹腔鏡下手術を導入し10年以上の実績があります。
- 肝胆膵がんにおいては、当科は日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設Aであり、高難度の手術を数多く行っています。血管合併切除・再建などを行う事で、他院で手術不能と診断された患者さんが手術を受ける事ができる場合もあります。また、患者さんの体への負担(侵襲)が少ない、腹腔鏡下肝切除・膵切除も数多く行っています。
- 乳がん診療においては、「日本乳癌学会乳腺専門医」が在籍しています。現在では乳がんの治療は専門性が非常に高くなっています。一方で長期の治療が必要な病態ですので、地域の先生方と協力して無理なく治療継続ができるように配慮しています。
- 当院には、消化器内科、肝臓内科、腎臓内科、画像診療科(放射線治療)、集中治療科、リエゾン精神科(精神科)など多くの専門科があり、多くの専門医が在籍しています。患者さんも近年高齢化しており、さまざまな基礎疾患を持たれています。外科手術は大きな侵襲であり、治療の成否には術後合併症をいかに制御するかが非常に重要です。当院では、このような専門家集団が連携したチーム医療を実践しています。
- 食道切除、胃切除、大腸切除、膵臓切除、肝切除に対し、ロボット支援手術が保険収載されました。当科もロボット支援手術の導入に向け準備を開始しています。