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私たちは食べ物を栄養に変えるには、噛む(咀嚼・そしゃく)、飲み込む(嚥下・えんげ)、消化、吸収と言う行程が必要になります。今回は「よく噛む」ことで得られる効果について説明いたします。
現代の食事と卑弥呼が生きていた弥生時代の食事を再現したもので噛む回数を比較したところ、現代の食事は、噛む回数が弥生時代の食事1/6と推定されました。このことから、弥生時代の食事は、よく噛んで食べることで、歯が丈夫であったことが予想され、「卑弥呼の歯がいーぜ(ひみこのはがいーぜ)」と言う標語ができました。
よく噛むことは脳の満腹中枢の活性化と血液の糖分濃度、全身のエネルギー代謝に影響しています。
食べ物を噛み始めることで、脳の後部視床下部が刺激されます。この刺激により神経性ヒスタミンと言う神経伝達物質の生成が促進されます。この神経性ヒスタミンによって神経回路が働き、満腹中枢を活性化するとされています。良く噛んで食べることで満腹になったと言うサインが送られ、食べすぎを防いでくれます。また、満腹中枢の働きにより肝臓や筋肉に蓄えられていた糖がグルコースとして血液中に放出されます。神経性ヒスタミンは交感神経を調節している脳中枢が活性化され、全身のエネルギー代謝が活発になり、体内の脂肪が燃えやすくなると考えられています。
噛んで唾液を分泌させることででんぷん質を分解し、舌で味を感じる組織「味蕾」の働きが良くなります。
食べ物を噛んで飲み込むまでの動作で口の周りの筋肉が鍛えられます。そして、口をはっきり開けて話すことできれいな発音ができると考えられています。
噛むことは脳への血流を増やし、脳全体の血液循環を良くする働きがあります。
また、脳には記憶をつかさどる脳の部分に海馬があります。年をとると脳の神経細胞は萎縮してしまいます。しかし、よく噛むことは海馬の神経細胞を増やしたり、働きをよくする効果があると考えられています。
よく噛んで歯に刺激を与えることであごの骨と歯のつながりが強くなります。
食べ物を食べると虫歯菌が糖分を分解して酸をつくります。この酸によって唾液には歯の表面の成分が溶けてしまうのですが、唾液にはその溶けた成分を修復する作用があります。
活性酸素は、体内でウィルスや細菌を除去する働きがあります。しかし、過剰に産生されると体の正常な部分まで攻撃してしまいます。攻撃された部分は酸化・変性をおこし、癌の原因になることもあります。唾液に含まれる成分は、活性酸素を抑制する働きがあります。
よく噛んでない食べ物は消化に時間がかかります。消化液は強い酸なので、消化に時間がかかるとその分胃壁に負担をかけ、胃腸炎などの消化器の病気の誘因になる可能性があります。
脳中枢の活性化によりエネルギー代謝が活発になり、体力が向上し、歯を食いしばることで大きな力が出る効果もあります。
よく噛んで食べることで得られる効果を説明しました。
次に、よく噛んで食べる習慣を身につけるための方法を紹介いたします。
〈一口30回噛む方法〉
食物を口の中に入れたら箸を置く。
右の歯で5回噛み、舌を使って左側の歯に送り、さらに5回噛む。
さらに同じ要領で左右5回ずつ噛む。
最後に両側の歯を使ってあと10回噛む。
実際にやると中々難しいと思いますが、よく噛むことを意識することが重要だと思います。このように意識して噛む以外にも、良く噛む必要がある食事にすることも方法の一つかと思います。よく噛む必要がある食事は
今回はよく噛むと言う効果について説明させて頂きました。しかし、噛んだり、飲み込むことに異常がある方は医師などに相談することをおすすめします。
文責:天野 雅之
参考参考資料:生活人新書 齋藤 滋 「よく噛んで食べる 忘れられた究極の健康法」