飯塚病院 外科

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各疾患のご説明と当科の取り組み

膵臓がん

“あきらめない外科”-膵がん治療への取り組み-

膵臓癌は難治性癌の代表

 世の中で言ういわゆる「膵臓癌(膵癌)」とは、医学的には「通常型膵癌」にあたると思います。膵臓の悪性腫瘍には、その他に膵管内乳頭粘液性腺癌(IPMC)や膵神経内分泌癌などがあり、これらは「膵がん●●」と表現します。今回は、この「通常型膵癌」を膵癌としてご説明します。
 今、日本で癌により亡くなられる方の中で、部位別で膵癌は4位です。膵癌による死亡数は、この30年で8倍になり、現在も増加傾向です。根治を目指せる治療法は、唯一外科手術のみとされていますが、手術をしても再発の可能性は残ります。しかも再発率が高いため、手術のみによる治療の限界も明らかであり、治療成績向上には、外科手術に加え、化学療法、放射線療法を組み合わせた「集学的治療」が必要です。つまり、手術と化学(放射線)療法は「車の両輪」とも言えます。当院でも、他施設と同様、根治手術ができる方は膵癌患者さん全体の20~30%と少ないです。進行してから発見されることが多いのが、その理由のひとつです。さらに全国的には、全ての膵癌患者さんの5年相対生存率(2006年~2008年診断例)は、他部位の癌に比べ圧倒的に悪く、約8%です。まさに、膵癌が、「21世紀に残された最後の難治性癌」のひとつと言われる所以です。

(出典:国立がん研究センターがん対策情報センターHPがん統計、
    厚生労働省「人口動態統計」)

膵癌治療の最前線[1]:暗黒の世界に一筋の光!

 このように、非常に治りにくいとされる膵癌ですが、最近、わずかながら一筋の光も見えてきました。我々も、現在、この治療に力をいれています。

1)新しい化学療法への取り組みとConversion Surgery

 前述のごとく、手術と同様に非常に重要なのが、化学療法(抗がん剤治療)あるいは化学放射線療法(抗がん剤治療+放射線治療)です。膵癌の化学療法は、長らく塩酸ゲムシタビンあるいはS-1が、切除不能膵癌(かなり癌が進んでいて手術ができない)の治療、あるいは手術できた患者さんに対する術後補助化学療法(再発予防が目的)として、エビデンス(科学的根拠)を有する数少ない薬剤でした。
 しかし近年、以下の2つの新しい化学療法が開発され、日本でも保険収載されました。

  1. FOLFIRINOX療法(フォルフィリノックス、FFX):少し専門的ですが、オキサリプラチン(L-OHP)+イリノテカン(CPT-11)+フルオロウラシル(5-FU)+レボホリナートカルシウム(l-LV)の4種類の薬を点滴併用する方法です。全生存期間11.1ヶ月、無増悪生存期間 6.4ヶ月、奏効率31.6%と、いずれもゲムシタビン単独療法より有意に良好な成績です(Conroy T, et al. N Engl J Med 2011; 364: 1817―25.)本邦では2013年12月に保険適応となりました。論文が発表された当初、「4種類もの抗がん剤を併用すればかなりの副作用があり、日本人には難しいのではないか」というのが私の率直な感想でした。実際、かなりダメージを受ける患者さんもいましたが、最近は少し薬剤を減量したmodified FOLFIRINOX(mFFX)療法が導入され、かなり順調に継続的治療ができています(Mahaseth H, et al. Pancreas, Ueno M, et al. ASCO Annual Meeting, 2016)。
  2. 塩酸ゲムシタビン(GEM)+nab-パクリタキセル(nab-PTX)併用療法(GnP療法):ゲムシタビンとナブパクリタキセルという2種類の薬を点滴します。生存期間中央値8.7ヶ月とGEM単剤より有意に良好な治療成績です(Von Hoff DD, et al. N Engl J Med 2013)本邦では、2014年12月に保険収載されました。
 今では、国内外で、これらの二つの方法が膵癌化学療法の第一選択になってきています。

 さらに、これらの化学療法または化学放射線療法の後、手術が介入する、いわゆる「Conversion surgery(CS、コンバージョン サージェリー)」が注目されています(図1)。CSの定義は、「初回治療前に画像上切除不能膵癌と診断され、化学(放射線)治療などの集学的治療によって腫瘍が縮小し、全身状態が良好な患者に対して施行された手術」です。しかし残念ですが、このCSが介入できる頻度(確率)はかなり低いです。当院でも、化学(放射線)療法により癌が小さくなり、外科手術ができるようになる「Conversion rate」(CSへの移行率)は10%以下で、国内のハイボリュームセンターも8~10%程度です。

(図1)

 ただ、FFX療法やGnP療法は抗腫瘍効果も高く、以前なら「残念ながら手術はできません。化学(放射線)療法が治療法で、延命が最終ゴールとなります。」と言われていた患者さんにも、手術が介入でき、助かる可能性も出てきたと思います。日本肝胆膵外科学会の多施設共同研究でも、CSの有効性を発表しています(図2)。今、膵臓関連の学会では、このCSをより効果的に行うため、各施設から、薬の使い方や化学療法の期間、放射線療法併用の有無、手術介入のタイミングなどが盛んに発表され議論されています。

(図2)



• 日本肝胆膵外科学会では、全国の39施設からCS症例を集め解析しました。
• 初回は手術不能で、その後、化学療法→
手術が介入した58例と化学療法だけの101例を比較検討しました。
結論
• 化学療法→手術のほうが、化学療法だけ
 より治療成績が良い。
• 特に、8ヶ月以上化学療法が奏功した症例
 の予後が良い。

 当科の成績では、CS介入後の生存期間中央値は18.9ヶ月(566日)、初回治療開始後の全生存期間中央値は、27.6ヶ月(827日)です(第49回日本膵臓学会大会[和歌山市、2018年6月]にて発表)。これは、他施設と比べても遜色ない成績だと思っています。

 以下に1例をお示しします。この方は、初診時、局所進行膵癌で切除不能(UR-LA)でした。化学放射線療法後CSを行い、幸い現在も無再発生存中です。


症例[1]
患者:74歳 男性
診断:膵鉤部癌 UR-LA cT4N0M0 cStage Ⅲ
治療経過:
1月 当科初診 EUS下生検 ➪ 膵頭部;腺癌
2月 GnP療法開始+放射線治療
 (50.4Gy/28fr)

4月~9月 GnP療法(計8コース)
10月 亜全胃温存膵頭十二指腸切除術


現時点での、当科のCS介入の判断基準は以下の通りです。


 我々は、以前にも増してこのような集学的治療を、消化器内科や放射線治療科と連携して行っています。

2)膵癌切除後の肺転移に対する外科治療

 前述のごとく、膵癌で根治を目指せるのは、唯一外科手術です。しかしながら、切除後の5年生存率も20%程度と、非常に厳しい状況です。ただし、その中で術後肺転移に関しては、少し状況が異なります。当院では、以下の条件をクリアしている方には、積極的に肺切除術を行っています。


 この条件を満たす患者さんに、肺切除を行うと大幅に予後が改善すると考えています。また、肺切除後も化学療法を継続することや、術後にまた新規に出現した肺転移に対しても、条件を満たせば、また追加切除することも重要と考えています。私たちのデータでは、最終肺切除後の平均生存期間は約21ヶ月、初回膵切除からの平均生存期間は約59ヶ月となります。
(金山雅俊、大﨑敏弘、梶山 潔ほか 日臨外会雑誌 77(5):1062-1068)

症例をお示しします
症例[2]
患者:73歳 女性
現病歴:
2008年1月 膵頭部癌(pT3N1M0 Stage III)に対し、
      亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)施行。
2008年1月~12月 S-1 100mg/日による補助化学療法(5コース)を施行。
2009年7月 CT検査で右上葉(S2)に1ヶ所、
      右下葉(S6,S8,S9)に3ヶ所の結節を
      認め、膵癌肺転移疑いとなる。
      その他、局所再発、肝転移、
      リンパ節転移なし。
2010年2月まで経過観察(TS-1続行)
2010年2月 CT検査 ➩ 肺転移巣に変化なし。
(膵癌術後 2年2ヶ月) 局所再発、肝転移なし。
2010年3月 胸腔鏡下右上葉(S2)、下葉(S6,8,9)部分切除 術(VATS)施行

病理組織診断:S2, S8 : 転移性肺腫瘍(中分化型腺癌、膵癌からの肺転移)。
       S6, S9:遺残癌細胞なし。

2010年4月~2012年4月 化学療法 塩酸ゲムシタビン  計27 コース
2011年4月 CT検査 肺転移疑い。
2012年4月 CT検査 肺転移巣に変化なし。
      局所再発、肝転移なし。
2012年6月 胸腔鏡下左下葉(S8)
      部分切除術施行。

(膵癌術後4年2ヶ月)

病理組織診断:転移性肺腫瘍(膵癌の肺転移)

2012年8月~2013年9月 化学療法 塩酸ゲムシタビン 1200mg 隔週 計30コース
2013年7月 PET-CT検査 左肺の転移(S8,S10)
2013年9月 腹部CTで他の部位に転移なし。
2013年10月 胸腔鏡下左肺下葉切除術
(膵癌術後5年9ヶ月)

病理組織診断:転移性肺腫瘍(膵癌の肺転移)

3回目の肺切除後、化学療法は行っていない。

2017年2月 膵癌術後110ヶ月(9年1ヶ月)経過 無再発生存、
      最終肺切除後40ヶ月(3年3ヶ月)

2018年9月 膵癌術後10年6ヶ月 無再発生存、最終肺切除後4年10ヶ月無再発。

 実は、古くから膵臓外科医の間では、この事実はある程度知られていました。現在、日本肝胆膵外科学会では、全国より症例を集め臨床研究を開始しています。

ハイボリュームセンターの意義

 当科の膵切除も徐々に増加し(図3、4)、九州を代表するハイボリュームセンターとなっています(表1)。膵癌などで行う膵頭十二指腸切除術(PD)が年間20例以上行われている施設はハイボリュームセンターと呼ばれます。当科は、9年連続ハイボリュームセンターを維持しています。




 また、日本肝胆膵外科学会が認定する高度技能専門医修練施設A(福岡県下に6施設、九州で14施設、全国で121施設)です。高度技能指導医3名(私梶山と皆川亮介 肝胆膵外科部長、山本一治 診療部長)および萱島寛人診療部長を中心に、厳しい症例に対しても簡単にあきらめることなく、我々の技術を最大限に使った高度な手術にも積極的に取り組んでいます(図5)。

(図5)

 また、膵癌のみならず癌の診断・治療には、肝胆膵外科の専門医はもとより、消化器内科、麻酔科、集中治療部、病理科など専門医が連携して診療ができる病院が勧められます。当院でも、この「専門医によるチーム医療」が充実しています。ガイドラインでハイボリュームセンターを推奨したのは、膵癌診療ガイドラインが本邦初ではないかと思いますが、やはり手術症例数の多い施設での手術が推奨されています。

膵癌でお困りの患者さん、ご家族の皆さんへのメッセージ

 膵癌の診断となり、地域の病院で、「手術できません」と言われる方もいらっしゃるでしょう。恐らく適切な診断が、なされていると思います。
 しかしながら、わずかに光も見えてきています。少しずつですが膵癌治療も進歩しています。「可能性にかけてみたい」というご希望がある方は、是非、一度ご相談いただければお役に立てるかもしれません。厳しい患者さんが、当院で必ず手術ができるわけではありませんし、必ず膵癌が治るというわけでもありません。夢のようなことを言うつもりはありません。皆さんのご希望に100%お応えできないのも事実です。
 ただ、少なくても、当科のモットーである「あきらめない外科」を胸に、ハイボリュームセンターの高度技能指導医としての技術と経験、そして最新の化学(放射線)療法を積極的に導入し、難治性である膵癌患者さんのご期待にお応えできば幸いと思います。

2019年2月
文責:副院長・外科統括部長 梶山 潔

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