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呼吸器外科の手術について


手術実績(2023年)

2023年は呼吸器外科で307例の手術を行い、そのうち肺がんに対する手術が一番多く159例でした(表1)。肺がん手術の内訳を表2に示しますが、およそ9割の症例に対して内視鏡手術(低侵襲手術)を行っています。またロボット支援内視鏡手術数は86例でした(表3)。



Topics: 小さな傷から小さな肺がんを切除する内視鏡(胸腔鏡)手術

 当科では2018年よりカメラで見えない小さな肺がんに対し、CT(コーンビームCT)撮影を併用して肺がんの位置を確認しながら切除する内視鏡(胸腔鏡)手術を開始しました。従来までの手術に比べると小さな肺がんを的確に切除することが可能となりましたが、切除範囲を確保するために複数の傷(2-3cm程度の傷が3-4カ所)が必要でした。
 そこで今までの経験を応用し、2022年から1カ所の小さな傷(約3cm程度)から小さな肺がんを切除する内視鏡手術(コーンビームCT併用単孔式胸腔鏡手術)を始めました(図1)。さらに2023年からはICチップ(図2)を利用した肺がんの局在評価法(シュアファインド)を用いることで、小さな傷からより確実に切除範囲を担保することが可能になりました。
 このように当科では常に最新の医療機器を導入し手術の低侵襲化(体に負担の少ない内視鏡手術)を心がけています。また術後の痛みも一層軽減され、高齢の方でも術後1週間未満の早期自宅退院が可能となっています。


手術について

 当科の手術方法は、大きく内視鏡手術(低侵襲手術)と開胸手術に分かれます。内視鏡手術では、ロボット支援内視鏡手術と胸腔鏡手術を行っています。以下、詳しく説明致します。

  1. ロボット支援内視鏡手術について
  2. 胸腔鏡手術について
  3. 見えない小さな病変に対する内視鏡手術について
  4. 開胸手術について

1 ロボット支援内視鏡手術

 当科では2022年1月より肺がん・縦隔腫瘍に対してロボット支援内視鏡手術を開始しました(現在、肺がんと縦隔腫瘍手術の一部で保険診療が認められています)。2023年は九州内有数のロボット支援手術件数を行いました(表3)。
 ロボット支援手術とは執刀医がロボットを操作しながら行う内視鏡手術のことで、当科では「ダビンチ」という機械を使用して行なっています。肺がん手術の場合は、脇の下に約1cmの小さな傷(ポート)を3カ所、および約3-4cmの傷を1カ所作り、手術を行っています(図3)。また縦隔腫瘍手術の場合は、肺がん手術と同様に行う場合(図3)と、両脇に約1cmの小さな傷(ポート)を3カ所、みぞおちのあたりに約3cmの傷を1カ所作る場合(図4)があり、腫瘍の場所によりいずれかを選択しています。



 「ダビンチ」には4本のアーム(手)があり、それに付けられた内視鏡カメラと3本の鉗子(手術器具)を体内に挿入し、執刀医は3Dモニターを見ながら座ってロボットを操作します。執刀医の細かな手の動きをコンピューターが忠実に伝え、アームが連動して手術を行う仕組みです。


 直感的に操作できるだけでなく、手ブレ防止などロボット独自の機能によって、正確で安全な手術が期待できます。
ロボット支援内視鏡手術の利点
[1] 術野が立体的で広く、鮮明
立体的な3Dモニターで術野を10倍まで拡大して見られるため、細部の手技が正確に行えます。呼吸器外科手術では心臓の近くの血管や気管支の剥離などミリ単位の正確性が求められますが、拡大視野で細かい手術を行うことができます。
[2] 人の指先以上の動きを実現
従来の内視鏡手術では直線的な鉗子(手術器具)を使用します。呼吸器外科の手術では胸郭(胸骨や肋骨)の制限があるため、直線的な鉗子の胸腔内操作に限界がありました。ところが「ダビンチ」の鉗子は人間の手首以上の可動域と、柔軟でブレのない確かさを持ち、指先にも勝る細かな手術操作を可能にしています。
ピール・ザ・グレープ
折り紙
※画像をクリックすると再生されます
[3] 術後の早期回復
術翌日朝より食事、歩行を再開します。術後の痛みも少なく、高齢の方でも約1週間程度で自宅退院が可能です。

2 胸腔鏡手術

 ロボット支援内視鏡手術では執刀医がロボットを操作しながら行いますが、胸腔鏡手術では執刀医が直接鉗子(手術器具)を操作して行います。当科では脇の下に約1-2cmの小さな傷(ポート)を2-3カ所、および約3-4cmの傷を1カ所作り、胸腔鏡手術を行っています(図5)。
  胸腔鏡手術の最大の利点は、執刀医が鉗子を通して触覚を得ることです(「ダビンチ」による手術では執刀医は触覚を得ることができません)。肺がんや転移性肺腫瘍に対する縮小手術(部分切除)、あるいは気胸・膿胸といった疾患に対する手術が対象となります。

3 見えない小さな病変に対する内視鏡手術(コーンビームCT併用胸腔鏡手術)

 カメラで見えない小さな肺がんに対する内視鏡手術では、肺がんがどこにあるのか正確に把握できない手術となります。このため従来までは、傷を拡げ触って位置を確認するか、肺を余分に大きく切除せざるを得なくなり、患者さんにとって負担が増える手術となっていました。また手術前にCT検査を行いながら肺に針を刺し目印を置き(CTガイド下マーキング)、手術室に移動してから切除する方法もあります(当科でも以前はこの方法を採用していました)。しかしこの方法では、肺に針を刺すことで重い合併症(空気塞栓、気胸、血胸)を引き起こすことが知られています。またCT検査室と手術室とを移動しなければなりません。
 当科では2018年10月より小さな肺がんに対し、手術中にCT撮影を併用する内視鏡手術(コーンビームCT併用胸腔鏡手術)を開始しました。カメラで見えない小さな病変もCTという目で正確に位置を把握することができ、内視鏡下に的確に切除することが可能となりました。
 2023年は56例の手術をCT撮影併用下で行い、いずれの小さな病変も内視鏡下に完全切除することができました。また小さな病変以外の内視鏡手術(肺生検・膿胸手術)にも応用することで、低侵襲かつ確実な手術を行っています(Topicsもご覧下さい)。

4 開胸手術

 内視鏡手術は小さな創(ポート)で手術を行いますが、開胸手術では脇の下に大きな創部(約20-30cm程度の皮膚・筋肉の切開および肋骨の切離)を作り、手術を行います(図6)。
 この手術方法の最大の利点は、術野に手を入れることが可能となるため、執刀医の触覚を最大限に使うことができることです。心臓に近い血管剥離など危険を伴う操作を、最も安全かつ確実に行うことができます。当科では術前治療(放射線治療や抗がん剤治療)を行った局所進行肺がん症例や、肺以外の臓器を合併切除・再建が必要な悪性腫瘍症例に対して開胸手術を行っています。
 また内視鏡手術中に安全面や正確性が担保できないと判断した場合も、開胸手術に変更します。一番大切なことは、低侵襲を優先することではなく、安全面や確実性に配慮した手術を行うことです。
 開胸手術の欠点は術後の痛みですが、麻酔科と協力し硬膜外麻酔を術後も併用することや鎮痛薬の進歩により、術翌日より食事や歩行が可能な程度に緩和可能です。おおよそ1ヶ月程度で内視鏡手術と同じ程度まで痛みは回復します。
 術後の入院期間は内視鏡手術と比較すると少し長め(10日前後)になりますが、約1ヶ月程度で職場復帰は可能となります。

(文責: 呼吸器外科部長 安田 学)