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B型肝炎と診断されたら

 B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起きる肝臓の病気で、さまざまな病態を形成します(図)。「急性肝炎」は強い倦怠感と、コーラの様な色の尿で、皮膚・眼球が黄色くなる黄疸の出現のような自覚症状で病院を受診することになる病気で、多くは軽快した後に定期的に病院に通院する必要はありません。これ以外の「キャリア」「慢性肝炎」などの持続感染のうち、9割の人は若年時にウイルス量が減り健康に暮らせますが、1割が慢性肝炎となり年率2%で肝硬変に移行し、肝細胞癌・肝不全に進展します。

B型肝炎ウイルスの感染によるさまざまな病態
B型肝炎ウイルスの感染によるさまざまな病態

 日本のB型肝炎ウイルスの持続感染がある人(図の「急性肝炎」を除いた人)は110~140万で、平成20年の厚生労働省の推計で慢性肝炎が約5万人、肝硬変・肝癌が約2万人とされていました。毎年の肝癌の死亡者数は現在約3万人で、B型肝炎はそのうち10~15%ですから、癌だけで約3~4,000人の方がなくなっていることになります。統計的な確率で言えば、B型肝炎ウイルスの持続感染がある人は、ない人と比べて40倍以上の発癌危険度があると言われています。

定期的なエコー検査を

 このように、B型肝炎を持っていると診断された場合に最も大事なことは、肝臓がんを早期に発見するために、無症状で体調が良くても定期的にエコーの検査を受けるべきである、ということを忘れないことです。「定期的」については、通常のキャリア・慢性肝炎では半年おきで十分ですが、肝硬変や肝硬変に近づいている人の場合は3ヵ月おきに検査をしなくてはなりません。B型肝炎と診断される方の多くが若い方で仕事などが忙しいため、ついつい定期的な通院をやめてしまうことがありますが、これは、かなり危険な賭けなのです。


正確な状況の把握が大切

 B型肝炎の病状はさまざまで、例えば親子でも全然異なる経過をたどることも珍しくありません。また、落ち着いているようでも突然悪くなることもあります。このように、医師でも理解が難しかったB型肝炎の研究も着実に進んでおり、たとえば20年前とは病気についての理解や治療法が大きく変わっています。現在では一般的な病気は「診療ガイドライン」が専門医の学会で作成されるようになっており、B型肝炎のガイドラインも毎年のように内容が更新されています。どのような病気でもそうですが、専門領域でなければ新しい知識を更新し続けるのは難しいものです。かかりつけ医がおありであれば相談されて、少なくとも一度は専門医に状態を正確に診断してもらったほうが良いと思います。

 専門医が具体的に何を診断するかといえば、①肝臓にがんがないかどうか、②どのくらい肝硬変に近づいているのか、③肝硬変になっていく可能性が高いのか、の3点です。そのうえで、治療は何もしなくても良いのか、B型肝炎ウイルスの増殖を止める薬(核酸アナログ)を使用すべきか、インターフェロンという注射をしたほうが良いか、定期的な採血やエコーの間隔はどのくらいか、などということについて判断することになります。


周囲への感染の危険性がどのくらいかを知っておく

 B型肝炎ウイルスを含む体液・血液の粘膜・傷ついた皮膚への接触(出産時の母子感染、幼少期の水平感染、性交渉、輸血、注射針・刃物など)で感染します。感染力はかなり強く、予防接種がない時代の病院内での針刺し事故(医療従事者が患者さんに使用した注射針を誤って自分の指に刺してしまったりする事故)の統計で、最も感染しやすい状態のHBe抗原陽性の患者さんからの針刺しで22~31%、陰性の患者さんからで1~2%であり、他に同様な経路で感染するウイルスと比較すると、HIV(いわゆるエイズウイルス)0.3%、C型肝炎ウイルス1.8%、であり、これらと比べて非常に高いことが知られています。わかりやすい例では、高校の相撲部や大学のアメフト部でB型肝炎が連続発生したことなどが報告されています。

 感染した年齢が低いほど持続感染となる確率が高く、特に生後6ヶ月未満で80%以上、6~12ヶ月で60%程度で、5~6歳以後の感染では持続感染にならず急性肝炎を発症する確率が高くなります。日本では長い間、母親がB型肝炎を持っている場合のみ出産後にワクチン接種がなされていましたが、2016年10月から、母親がB型肝炎でない子供にも接種するようになっています(1歳までに3回)。

 このように、B型肝炎を持っている場合は、他者に感染させやすい状況かどうかを正しく知っておかないといけません。周囲でワクチン接種を受けていない人がいれば、接種してもらうべきかどうか、医師と相談する必要があります。もしも、かかりつけの病院で、この点について判断できないようであれば、専門医への受診を希望してください。


B型肝炎訴訟について

 昭和期の集団予防接種等では注射器を使い回しにしていたため、B型肝炎ウイルスの持続感染の原因になっていることがあります。救済対象になる人には給付金が出る法律があります。制度の詳細について知りたい方は、まずは厚生労働省のホームページを見て下さい。訴訟の取り扱いは当然裁判所ですので、ご自身で手続きすることも可能ですが、実際には弁護団にかかわる弁護士・法律事務所などが窓口になっています。医療機関は受診歴がある患者さんについて、訴訟に必要な書類を依頼された場合の記載・作成を行うだけですので、救済対象であるかどうかなどについての医療機関へのお問い合わせはご遠慮ください。


文献
日本肝臓学会・B型肝炎治療ガイドライン
肝がん白書 平成27年度
厚生労働省H23年度研究報告書
CDC MMWR2001