飯塚病院 歯科口腔外科

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顎関節症とその治療について

Q. 以前から顎がカクカクしていて、かかりつけの歯医者さんで顎関節症と言われマウスピース治療を行っています。最近音は無くなったのですが、痛みが出て口が開きにくくなってきました。このままマウスピース治療を行っていれば治るのでしょうか?


 まず顎関節症とは、耳のすぐ前にある顎関節の痛みや音、周囲の咀嚼筋の痛みを主要症状とする顎運動障害のことを言います。
 顎関節症には4つのタイプがあります。

  1. 咀嚼筋痛障害(I型)
    咀嚼筋痛障害(I型)
  2. 顎関節痛障害(Ⅱ型)
    顎関節痛障害(Ⅱ型)
  3. 関節円板障害(Ⅲ型)
    復位性(Ⅲa型)
    非復位性(Ⅲb型)
    関節円板障害(Ⅲ型)復位性(Ⅲa型)
    関節円板障害(Ⅲ型)非復位性(Ⅲb型)
  4. 変形性顎関節症(Ⅳ型)
    変形性顎関節症(Ⅳ型)

 今回のご相談は、その中でも3.関節円板障害(Ⅲ型)に分類される病態と考えられます。これは下顎骨とその受け皿の骨の間にある関節円板(コラーゲン線維の束で軟骨のようなもの)が関係します。


顎関節の正常な構造

顎関節の正常な構造

 正常な状態では、閉口時に関節円板は下顎頭と受け皿(下顎窩)の間に挟まっており、口を大きく開けると下顎頭は前下方に動き関節隆起の真下まで移動しますが、その間関節円板は常に下顎頭に被さっており、下顎頭がスムーズに動くためのベアリングのような働きをしています。


開閉口における正常な円板の位置

開閉口における正常な円板の位置

 関節円板障害は、関節円板が正常な位置から少し前にずれる(関節円板前方転位)ことによって、顎を動かす際に引っかかりが起きます。さらに開口してゆくと前にずれた関節円板を関節頭が乗り越える際にポキっという関節雑音が生じるタイプがあり、これを復位性関節円板障害(Ⅲa型)といいます。ご相談にあった最初の症状のカクカクする音は、この病態であったと推察されます。


復位性関節円板前方転位

復位性関節円板前方転位

 音が鳴るからといってすぐに治療が必要というわけではなく、音が鳴っていても口を開けて指3本が入る程度(4cm以上)でしたら様子をみていても問題はありません。痛みを生じた際は鎮痛剤を内服してもらうと良く、約半数の方は自然に症状が落ち着くと言われています。

 一方「音は消えたが口が開きにくくなった」という場合は注意が必要です。関節円板が引っ掛かったままの状態(クローズドロック)になると、顎が動かせなくなる非復位性関節円板前方転位の状態に陥っている可能性があります。


非復位性関節円板前方転位(クローズドロック)

非復位性関節円板前方転位(クローズドロック)

 クローズドロックの新鮮例に対しては、徒手的顎関節授動術(マニピュレーション)を行ってロックを解除し、非復位性から復位性円板前方転位の状態に戻すことができる可能性があります。

徒手的顎関節授動術(マニピュレーション)の方法
△徒手的顎関節授動術(マニピュレーション)の方法

 痛みが1か月以上続く場合や口が開きにくくなった場合には、関節円板の位置や形、さらに関節に炎症性の水(浸出液)が溜まっていないかをMRI検査で確認する必要がありますので、専門医療機関を受診してください。


MRI検査

MRI検査
MRI検査

 口が開けづらい状態を長期間放置すると、骨にも変形が生じる変形性顎関節症という状態になることがあります。

変形性顎関節症という状態に

 当院ではMRI検査を行って関節円板の状態を確認し、関節に水が溜まっている症例には水を抜く治療(パンピングおよび関節腔内洗浄療法)を行っています。関節円板を元に戻すことはできませんので、その後開口訓練を行い下顎の可動性を回復させるリハビリを行うとともに、最近ではセルフケアも重要であることがわかっていますのでその指導も行います。

パンピング療法
△パンピング療法(上関節腔を拡張させ、関節円板の可動性を向上させる)

パンピング後の処置
△パンピング後、上関節腔の前方に二本目の針を刺入し、関節腔内を生理食塩水にて炎症性浸出液を洗い流す。終了後、開口訓練を行い、関節円板後部組織の伸展を図る。

自己開口訓練

徒手的開口訓練と開口器を用いた開口訓練
△徒手的開口訓練と開口器を用いた開口訓練
開口訓練の方法
  • 痛い所まで開口する
  • 10~15秒×5回/セット
  • 3~5セット/日

 リハビリの効果が得られない場合や、関節円板や下顎の骨の変形が強い場合には手術(顎関節鏡視下剥離授動術や関節円板切除術、顎関節形成術)が必要となる場合もあります。

 スプリント(いわゆるマウスピース。正式名称はアプライアンス)療法は、睡眠時の歯ぎしりやくいしばりに対する筋の緊張や顎関節への負荷を和らげる目的で使用します。しかしながら、関節円板障害への効果は限定的であり、逆効果で症状を悪化させたり、咬み合わせへの影響が出る場合もあるため使用には注意が必要です。

顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン

 口が開かない原因には顎関節症以外の疾患も考えられます。特に口の開き具合が指1本程度の場合には重篤な疾患(炎症や悪性腫瘍など)による症状の可能性もありますので、お気軽にご相談ください。



参考文献
新編 顎関節症 日本顎関節学会編 永末書店
一般社団法人 日本顎関節学会 顎関節症治療の指針2020
一般社団法人 日本顎関節学会 顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン
顎関節症の三大症状 古谷野 潔、小見山 道ら クインテッセンス出版株式会社
顎関節症のベーシック治療 内田貴之 the Quintessence. Vol.40 No.7 52-81, 2021

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