飯塚病院 整形外科

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主な病気・治療について

股関節とは

 股関節は骨盤と大腿骨を連結する関節で、体を支える重要な役割を担っています。体重がかかる関節であるため年を重ねるとすり減ったり、変形したりすることがあります。特に原因もなく股関節に変形を来したものを一次性変形性股関節症、何らかの原因で変形を来したものを二次性変形性股関節症と言います。二次性変形性股関節症をおこす原因としては、骨盤のかぶりが悪いことによるもの(寛骨臼形成不全)、外傷の後に起きるものなどさまざまな原因があります。また、他に代表的な股関節の病気として、大腿骨の骨頭という部分が何らかの原因で血流がなくなって壊死を起こす大腿骨頭壊死症と呼ばれる病気があります。ステロイドの内服、アルコールの多飲、外傷などが原因となることがありますが、特発性といって原因がよくわからない場合もあります。関節リウマチなどの膠原病も、股関節の破壊を来し治療が必要となることがあります。

股関節の病気

変形性股関節症

 変形性股関節症は軟骨の変性・摩耗など股関節の破壊が生じるとともに、関節を安定させるために増殖した骨棘(こつきょく)を特徴とする病気です。レントゲン像では関節の破壊を示す骨嚢胞(骨の中にできる空洞)や骨増殖を示す骨棘(骨の棘)による骨頭変形などが特徴です。股関節にこのような変化をきたすと痛みが出現し徐々に動きが悪くなります。
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大腿骨頭壊死

 大腿骨頭壊死は大腿骨頭の一部が壊死を起こし、それに引き続く陥没などで股関節に障害を起こす病気です。体重負荷がかかる部分以外に壊死が生じた場合は陥没が生じずそのまま無症状で経過しますが、体重負荷がかかる部位で壊死が生じた場合は骨頭が圧潰する可能性があります。骨頭に圧潰が生じると痛みなどの症状が出現します。
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関節リウマチ

 関節リウマチは、自己免疫の異常により全身の関節に炎症を生じる病気です。主に手や足の関節、膝関節を障害することが多いですが、股関節も例外ではありません。痛みや関節の腫れで発症しますが、進行すると軟骨や骨の破壊が進み、関節の変形を来します。近年、効果が強い新しい薬が使われるようになり、関節破壊を予防できるケースも増えており、治療が大きく進歩している病気です。
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大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折

 大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折は、大腿骨頭の軟骨のすぐ下に骨折を生じ、それに引き続き生じる陥没で股関節に障害を起こす病気です。負荷を制限することで治る場合もありますが、陥没が徐々に進行し、変形性股関節症に至って手術を要する場合もあります。中には、急速に股関節が破壊されていくケースもあり(急速破壊型股関節症)、この際には早期に手術が必要です。
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当院の治療方針

 まずは保存的(手術を行わず)に投薬、リハビリ(ストレッチ訓練)、杖の使用、減量などを行うことが基本です。しかし痛みが著しい場合や、変形・破壊が急速に進行する場合などは手術を検討します。保存的治療と手術的治療の利点とリスクをそれぞれ十分に把握することが大切です。

手術療法について

 手術療法はさまざまです。それぞれの手術の特徴を十分に把握して方法を選択する必要があります。
 人工関節は除痛と術後の可動域の確保に優れ、早期に歩行が開始できる手術方法ですが、術後の脱臼や感染に弱いなどの問題があります。また長期的には人工関節の摩耗やゆるみの問題が指摘されています。そこで若壮年では関節を残す術式が第一選択肢となります。関節を温存する術式としては、寛骨臼移動術、キアリー骨盤骨切り術、棚形成術、大腿骨頚転子部回転骨切り術、内反骨切り術、外反骨切り術などがあります。骨切り術は関節をより安定する形に変えて関節を再生させる手術です。当院では多種多様な股関節の状態に対応すべく、さまざまな術式を駆使してより安全で体に優しい治療を行っております。

人工股関節全置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)

 人工股関節全置換術は、変形性股関節症、大腿骨頭壊死、関節リウマチなどの疾患で股関節が著しく変形・破壊され、痛みと動きが悪くなり、他の方法で改善が期待されない場合に検討します。変形・破壊を来した大腿骨頭を切除し、骨盤側に半球状のカップを設置して、その内部に特殊な加工を施された球形の凹みがあるポリエチレンをはめ込みます。大腿骨側では棒状のステムと言われるものを骨の中に挿入して、その先端に丸いボールをかぶせます。このボールが骨頭の役となり、ポリエチレンの凹みの中に入って股関節の働きをします。手術は通常1時間半程度で、術中に適切な人工股関節の設置が行えたかどうかの評価を何度も行います。
 特殊な場合を除いて、術後数日から歩行訓練が開始できます。高齢者などでは、ベッド上の安静期間が長いと、筋力の低下や体のバランスを保つ能力に支障を来し、回復までに長期間を要することがあります。よって高齢者の場合は、人工股関節全置換術が有用と考えられます。当院では術後2週間は合併症管理などのために入院が必要ですが、その後は歩行機能の回復に応じて退院を許可しております。早期リハビリが可能で利点の多い手術ですが、欠点がないわけではありません。生体に大きな異物を入れることによる感染や摩耗のため使用年数に限りがあること、特定の肢位(強く曲げてひねる)で脱臼することなどが欠点として挙げられます。人工関節の利点と欠点をよく理解したうえで治療方針を決定することが大切です。

人工股関節全置換術 手術前と後の比較
人工関節人工関節について

 本体はチタンでできており、骨頭部はセラミックを使用しております。カップに装着する特殊なポリエチレンは摩耗しにくい特殊な加工が施されています。また人工関節の表面形状は特殊な凹凸構造をしており、その表面にはハイドロキシアパタイトをコーティングしています。このハイドロキシアパタイトは凹凸構造の中に骨を呼び込んで、より強固に骨と人工関節を固着させることに役立ちます。

関節温存術

寛骨臼移動術(前方アプローチ SPO:Spherical Periacetabular Osteotomy)

 寛骨臼移動術は寛骨臼の凹みが浅い股関節に対して、寛骨臼周辺を骨切りし、骨頭の被覆を増大させる術式です。
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キアリー骨盤骨切り術

 キアリーが1955年に発表した手術方法で、股関節の関節包直上部で骨盤を直線状に骨切りして股関節を内側に移動させ安定化させる手術方法です。
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杉岡式外反骨切り術

 大腿骨を楔状に切骨して、大腿骨頭を外反させる手術です。
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杉岡式前方・後方回転骨切り術

 股関節の手術の中でも難易度の最も高い手術の一つです。
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西尾式弯曲内反骨切り術

 弯曲内反骨切り術は1969年に九州大学医学部 整形外科教授 西尾 篤人先生が開発した手術であり、切骨を転子間部において弯曲させて行うために従来法と比べ下肢の短縮が少なく、接触面積も広いため骨癒合にも有効な方法です。
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検査

X線

 最も基本的な検査です。正面像、ラウエン像と呼ばれる大腿骨頭頚部の側面像以外にもさまざまな肢位で撮影を行い診断や手術計画に使用します。

CT検査

 骨盤・大腿骨情報を立体的に診断するのに使用します。また、当院では三次元手術計画を積極的に行っております。

MRI検査

 靭帯・筋肉など骨に限らず軟部組織の質的診断を行います。炎症や浮腫、骨折などを感度良く診断できます。X線で診断できない骨折もMRIで診断することもできます。

関節造影検査

 股関節の軟骨の状態や関節の適合を把握したいときに行います。主に関節温存術(骨切り術)を行う前に施行します。

術後について

人工股関節後のスポーツについて(制限動作など)

 人工関節は金属、セラミック、ポリエチレンなどで構成されています。激しいスポーツを行うと骨と人工関節の境界部に弛みが生じたり、ポリエチレンが磨耗しやすくなったりすることが危惧されます。ゴルフ程度のスポーツは全く問題ありませんが、ジャンプを伴うスポーツやコンタクトスポーツはお勧めしません。

サポートについて

 一年経過したら基本的に一年間隔の受診が必要です。

合併症

深部静脈血栓症

 エコノミークラス症候群として有名な病気です。手術や長期臥床などを契機に、血管内に血液の固まり(血栓)が付着し徐々に大きくなる病気です。
 下肢の人工関節の手術では何の対策も講じずに手術を行うと、3割以上のケースで下肢に血栓が生じるとも言われています。血栓は下腿後面のヒラメ筋内に初発すると言われ、希に血栓が大きくなり何らかのきっかけで血管内から剥がれ肺に到達することがあります。肺の大きな血管を閉塞すると肺塞栓症やそれに引き続く肺梗塞を引き起こし、生命の危険を伴う事態に発展します。当院ではこれらの合併症を回避すべく、さまざまな対策を講じております。弾力ストッキングやフットポンプ、抗凝固療法などを駆使してその対策を行っております。

出血

 大量出血をすることは極めて希ですが、その可能性はあります。出血のリスクの高い手術では原則的に自己血の採取を行っております。予想を上回る出血があった場合は日赤の血液を使用することになります。感染症や拒絶反応のリスク指摘もありますが、その可能性は極めて低いと言われています。
※ 患者さんの状態によっては、自己血の採取ができない場合もあります。

感染

 空気中には埃と一緒に細菌が舞っています。手術の際に皮膚は消毒いたしますが、毛穴の中までの消毒はできません。感染を起こさないように抗生剤の投与や術中の洗浄などを十分に行いますが、100%感染を回避することは困難です。特に人工関節は人工物でできており、血流がないため細菌が付着するとその表面で増殖しやすいと言われています。ひとたび人工関節に細菌が付着すると抗生剤を使用してもなかなか鎮圧することが困難になります。そのため感染に対しては予防が一番大切です。当院には空気フィルターのついた人工関節用の手術室(クリーンルーム)があります。手術を行う際に特別なヘルメットをかぶって行うなど感染については配慮しております。その他さまざまな工夫により感染が起きる可能性を低く抑えています。
 人工関節では術後も最低限の清潔には気をつけていただく必要があります。虫歯や化膿創を放置したりしていると、細菌が血流に乗って人工関節まで到達する可能性があります。人の体は細菌感染に抵抗するための免疫が備わっていますが、虫歯や怪我などはできるだけ早く病院に行って処置をしてもらいましょう。

脱臼

脱臼した人工股関節 人工股関節の術後に股関節が抜けることがあります。これを脱臼と言います。絶対に抜けない人工関節はありません。しかし抜けにくくするための工夫はいくつかあります。当院では、術前に3次元ソフトを用いて綿密な手術計画を立てて手術を行っています。そして術中に関節の安定性について十分な検討を行うことで、より抜けにくい人工股関節の設置を心がけております。また、症例により手術アプローチを変える工夫も行っております。
※骨切り術では脱臼の問題はありません。

脚長差

 股関節の手術を行った後に下肢の長さが変化することがあります。当院では脚長をできるだけそろえるよう配慮しておりますが、安定した股関節を作るために、どうしても脚長差が生じることがあります。術後に脚長差が生じた場合は靴の中に入れる底敷(補高)で対処いたします。補高には保険が適応されます。

関節の動き

 手術によっては術前よりも関節の動きが悪くなることがあります。人工関節の場合も術後に動きに若干の制約があります。それぞれの手術の特徴を術前に十分理解していただく必要があります。

人工股関節の摩耗・破損

ゆるみが生じた人工股関節 人工股関節では長期的にポリエチレンの摩耗や人工関節本体のゆるみが生じてくる可能性があります。最近の人工股関節ではこれらの問題を軽減するための工夫がなされていますが、解決したわけではありません。このような問題があるため人工関節には耐用年数があるのです。一度ゆるんだ人工関節が自然と元の状態に戻ることはありません。変化の速度には個人差がありますが、徐々に悪化の方向に向かいます。人工関節の周囲の骨や軟部組織の条件が悪くなる前に再置換術を行う必要があります。よって人工関節を受けた患者さんは、例え調子が良くても定期的な診察・レントゲン検査を受ける必要があるのです。

手術の傷跡

 手術を行う際に皮膚の切開を行います。体質によって手術跡がケロイド状になる方もおられます。当院では原則埋没縫合(糸が体表に出ない縫合)を行って、傷跡を目立たなくするよう努力しております。

金属アレルギー

 当院で使用している人工股関節はチタン、セラミック、ポリエチレン、ハイドロキシアパタイトでできています。これらの物質にアレルギー反応がある場合、人工股関節のゆるみが早期に発生する可能性があります。これまでにネックレス、イヤリング、時計などの金属(特にチタン)で皮膚炎を起こしたことがある方は主治医にお申し出ください。

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