専門医育成プログラムの概要
飯塚病院感染症科は、院内での診療のみならず、地域医療機関への支援や行政への政策提言なども行っています。専門医育成プログラムでは、臨床、教育、研究分野での日本トップクラスを目指して、「羽ばたけ世界へ!~必要なのは未来を創る志~」をスローガンに掲げ、世界に通用する人材、日本を牽引する人材を育成します。基幹病院としての症例の豊富さに加え、世界水準の臨床感染症学を学べるとともに、アウトブレイク対策として疫学を学ぶ機会もあります。さらに、質量分析計や各種遺伝子検査装置など微生物検査が充実しており、高水準な臨床微生物学も学ぶことができます。
当院のプログラムの主な特徴は、以下の通りです。臨床のみならず、専門医取得に必要な学会発表や世界に発信するための研究ノウハウも習得できます。目標達成に向けた業務免除期間や費用補助なども充実しており、魅力的なプログラムを準備しています。
- 1年目に1週間、3年目に1か月間、微生物検査室の実習
- 3年目に1か月以上、リサーチ期間の取得(業務免除)
- 3年目に最大3か月間、国内/国外留学可能(給与保証あり)
- 毎年1回以上の学会(内1回は海外学会)発表を支援(費用補助あり)
- 3年間で1本以上の論文/症例報告の投稿を支援
詳細は、「専門医育成プログラムの計画概要」をご覧下さい。
専門医育成プログラムの計画概要
一般目標(General Instructional Objective: GIO)
グローバル化の進む時代において、幅広い着眼点を持ち、世界への発信や地域への還元を行うことのできる感染症専門医に必要な知識や技能を取得する。
行動目標(Specific Behavioral Objectives: SBOs)
- 概略
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- 1類、2類、輸入感染症、希少感染症に対する直接診療を行うことができる。
- 3類から5類、一般感染症のコンサルテーションおよび担当医の指導を行うことができる。
- 世界への発信(学会、論文など)を行うための知識や技能を身につけることができる。
- 地域(行政、住民、医療機関など)のニーズに応じて、感染症の知識や適切な対応策を提供することができる。
- 感染症診療
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- 患者背景因子を把握するための情報収集(既往歴、現病歴、医療管理物、抗菌薬曝露歴など)を過不足なく行い、的確にまとめることができる。
- 感染臓器の推定に必要な問診、診察を適切に行うことができる。
- 感染症診断検査の種類、特徴を把握し、検査前確率、検査後確率、検査精度を意識した検査の選択・推奨を行うことができる。
- 病原微生物の特徴を理解し、微生物学的鑑別を挙げることができる。
- 微生物学的検査(グラム染色、微生物同定検査など)を理解し、日常診療で有効に活用することができる。
- 患者背景因子、感染臓器、原因微生物を意識した鑑別を挙げ、疾患頻度や重要度を考慮した鑑別診断の優先順位を付けることができる。
- 非感染性疾患の鑑別も挙げ、内科的に適切なマネージメントができる。
- 感染症患者の診断を適切かつ迅速に行うことができる。
- 感染症治療
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- 抗微生物薬(抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗原虫薬)の種類、特徴、副作用を把握し、適切な治療を選択することができる。
- エビデンスや各国のガイドラインに基づいた治療を選択することができる。
- 感染症診断、病原微生物、薬剤感受性試験結果に応じた適切な抗微生物薬を選択することができる。
- 患者重症度、鑑別診断に応じた適切な経験的抗微生物薬を選択することができる。
- アンチバイオグラムを意識した経験的抗菌薬を選択することができる。
- 微生物学的特徴(内因耐性やAmpC過剰産生リスクなど)を理解した上で、薬剤感受性結果を適切に評価し、抗菌薬を選択できる。
- 感染症診断に応じた適切な治療期間の設定を行うことができる。
- バイオアベイラビリティを意識した内服抗菌薬を選択することができる。
- 感染症補助療法を理解した上で、適切な専門家と連携し、感染症治療を行うことができる。
- 現疾患の治療、患者・家族の希望、患者予後などを加味した治療方針を選択することができる。
- 患者、担当医に寄り添ったコンサルテーション業務を行うことができる。
- 感染症予防
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- 感染症の一次予防、二次予防に関する知識を習得し、実施、説明することができる。
- 標準予防策、感染経路別対策(空気予防策、飛沫予防策、接触予防策)の実施と医療従事者への指導を行うことができる。
- ワクチンで予防可能な疾患を把握し、適切な推奨を行うことができる。
- 未接種ワクチンのキャッチアップならびに、その対応を行うことができる。
- 海外渡航前相談への対応(トラベルワクチン、マラリア予防内服、防蚊対策の推奨など)を行うことができる。
- 感染症に関連する法律(感染症法、学校保健法、食品衛生法など)を把握し、法律に準じた対応や適切な推奨を行うことができる。
- 感染制御・病院感染
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- 感染管理チーム(ICT)の一員として、他職種(看護師、臨床検査技師、薬剤師)と協力し、院内感染管理業務を円滑かつ適切に実践することができる。
- 院内感染症モニタリング、サーベイランス結果をもとに迅速かつ適切な介入を行うことができる。
- 院内感染対策において、分子疫学的解析の役割を理解し、有効に活用することができる。
- 院内アウトブレイク発生時に原因究明を行い、対策を講じることができる。
- 院内外からの感染対策に関する相談について、適切に対応することができる。
- 感染防止対策加算1の病院として、地域における役割を理解し、地域連携を行うことができる。
- 抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の一員として、他職種(看護師、臨床検査技師、薬剤師)と協力し、抗菌薬適正使用支援を適切に行うことができる。
- 担当医に対して、感染症専門家としての推奨(抗菌薬適正使用支援)を行うことができる。
- 薬剤耐性対策として地域の抗菌薬適正使用プログラムの支援を行うことができる。
- 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく指定地方公共機関としての役割を理解した上で、地域、県における会議や訓練に参加し、地域連携を行うことができる。
- 臨床研修・基礎研修
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研修期間中の3年間に、感染症に関する3回以上の学会発表と1編以上の論文執筆を行うことを原則とする。また、1編以上の英著(症例報告可)の執筆を必須とする。
注釈1)3回の学会のうち1回は原則海外学会での発表とする
注釈2)論文は原則、原著論文とする - 専門医資格の取得
- 研修終了後は、受験資格が整い次第、日本感染症学会専門医認定試験を受験する。
方略
- 研修期間
- 研修期間は3年間を原則とする。
- 研修方法
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- 病棟業務
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- 日々の感染症コンサルテーション業務を通じて、感染症診療(診断、治療、マネージメント)に必要な基本的な知識を獲得する。
- 血液培養結果および抗菌薬選択に関するモニタリングを行い、担当医へ抗菌薬の助言を行う。
- エイズ拠点病院として、HIVの診療およびコンサルト業務を行う。
- 外来業務
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- 週に1回以上の外来診療で、骨髄炎、結核、HIV患者などの長期フォローを行う。
- ワクチン・トラベル外来を経験し、海外渡航前相談の知識を得る。
- ICT・AST業務
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- ICTの一員として、院内感染症サーベイランスや対策に関する業務を指導医とともに行う。
- ASTの一員として、特定抗菌薬のモニタリングおよび抗菌薬適正使用支援に関する業務を指導医とともに行う。
- 院内教育活動
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- 感染症診療に関して、研修医や担当医へフィードバック(教育や指導)を行う。
- 院内職員に対する感染症勉強会を定期的に行う。
- 感染症関連知識の補充
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- 感染症コンサルテーションおよび血液培養モニタリング症例に関する指導医からのフィードバックを毎日貰い、自己学習する。
- 定期的に開催される感染症カンファレンス、ジャーナルクラブ、海外ガイドライン輪読会、感染症論文定期輪読会(Clin Infect DisおよびLancet Infect Dis)、Clinical Microbiology Roundへ参加し、積極的に発表することで、感染症関連知識をアップデートする。
- 感染症検査室(微生物検査室)のローテーションを行い、微生物検査の基本的な知識(グラム染色、微生物の同定、薬剤感受性検査など)を習得し、実践できるようにする。
- 飯塚病院の規定順じた院外研修期間を活用し、国内外施設のローテーションや研修コースを受講することで、輸入感染症、移植後感染症、結核、HIV、感染疫学、微生物学などを重点的に学ぶ。
- 定期的に開催される福岡県内の感染症指定医療機関や筑豊地域での会議や訓練に参加し、1類、2類感染症に対する知識や対応技能を習得し、維持する。
- 地域連携
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- ICT業務として、定期的に開催される地域カンファレンスに参加し、医療機関との連携を行う。
- 定期的に開催される新型インフルエンザ等対策会議および訓練に参加し、行政や医療機関と連携し、感染症専門家としての役割を果たす。
- 対外的な発信
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- 感染症に関わる対外的な発信(院外講演会での発表や商業誌の執筆)を行うことで、感染症に関する知識を深める。
- 学会や研究会に積極的に参加、発表を行うことで、感染症関連職種との意見交換を行い、感染症分野での視野を広げる。
- 研究期間(研修3年目の1~3ヶ月間)を活用し、海外学会での発表および感染症関連雑誌への論文発表を行う。
評価方法
- 半年毎に面談を行い、到達目標の確認を行う。
- 研修記録をもとにした自己評価および指導医評価を行う(層別評価:1. Interpersonal Communication, 2. Professionapsm, 3. Medical Knowledge, 4. Patient Care, 5. Practice Based Learning, 6. System Based Practice)。
- ICT、ASTメンバーからの360度評価を行い、フィードバックを行う。
- 研修内容の評価をもとに、次年度の研修計画を適宜修正する。
- 研修3年目の希望者は、米国感染症学会が提供する試験IDSA Fellows In-Training Exam (ITE)を受験し、米国感染症フェローとの差を自己評価する。
- 感染症専門医認定試験の結果は総括的評価となる。