感染症TOPICS
第8回:抗菌薬適正使用支援について~経口抗菌薬~
感染症科 長谷川雄一
薬剤耐性菌について
近年、抗菌薬が効かない薬剤耐性を持つ細菌が世界中で増加しています。WHOの報告によると2050年には世界で薬剤耐性菌による死者数が1000万人に達すると言われ、悪性腫瘍による死者数を上回ると予想されています。また、薬剤耐性菌による死者数や医療費の増大に伴い世界で約100兆ドルの国内総生産が失われると試算されています1)。次の世代そして未来のために、抗菌薬の適正使用が強く求められています。
日本における抗菌薬使用の現状
日本で使用される抗菌薬のうち、約90%は外来で処方される経口抗菌薬です。日本は他国と比べ抗菌薬の総使用量自体は多くないものの、セファロスポリン、キノロン、マクロライド等の広域抗菌薬の使用割合が極めて多いという特徴があります2)。その原因の一つに、ウイルスが主な原因である風邪や胃腸炎に対する不要な経口抗菌薬処方が挙げられています。しかも、バイオアベイラビリティ(生体利用率)が16%と低く効果が望めない可能性がある経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬(当院採用薬:メイアクト)なども世間では多く使用されています(表1)。このような背景をふまえて、国は2016年に薬剤耐性アクションプランを策定し、全抗菌薬使用量33%減、セファロスポリン、キノロン、マクロライド処方50%減、静注抗菌薬 20%減を目標に掲げ、抗菌薬適正使用を強化する方針を打ち出しました。
(表1)当院採用の代表的な経口抗菌薬とバイオアベイラビリティ
サンフォード感染症治療ガイド、Johns Hopkins ABX Guideより作成
当院における抗菌薬適正使用支援の取り組み
令和2年度の診療報酬改定により、経口抗菌薬に対する適正使用支援の加算(100点)が追加になりました。その方針を受けて、当院では感染管理委員会承認のもと、入院患者への抗菌薬適正使用支援に加えて、2020年10月より抗菌薬適正使用支援チームが院内における下記経口抗菌薬処方の動向調査を行っています。
- (1)経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬処方
- (2)風邪に対する抗菌薬処
- (3)急性下痢症に対する経口抗菌薬処方
同時期に経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬の処方上位診療科のヒアリングを行うとともに、感染管理委員会から医師に向けて診療科別処方動向の月報配信を開始しました。パスの見直し等を含めまして各診療科の皆様のご協力のも と段階的に処方が減ってきたため(図1)、2021年3月より同薬剤の処方を許可制へと移行しました。
(図1)経口第3セファロスポリン系抗菌薬の処方
- 【参考文献】
- 1)Antimicrobial Resistance:Tackling a crisis for the health and wealth of nations.
The Review on Antimicrobial Resistance Chaired by Jim O’Neill December 2014 - 2)AMR 臨床リファレンスセンターHP (http://amr.ncgm.go.jp)