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感染症TOPICS

第7回:薬剤耐性対策(AMR)アクションプランとAIHでの広域抗菌薬の処方動向

感染症科 帆足公佑

AMRアクションプランについて

 “One Health” という言葉を聞いたことはありますか?近年、薬剤耐性微生物が増加傾向にあり、社会問題となっています。今回は、この問題について具体的に概説したいと思います。

 抗菌薬はあらゆる場面で使用されます。細菌感染症が疑われる場合に抗菌薬を処方することは一般的ですし、抗ウイルス薬、抗真菌薬や抗寄生虫薬を処方することもあります。

 しかし、実はヒト以外にも多くの場面で使われており、なかでも最も注目されているのは畜産です。疾病の治療を目的とした動物用抗菌薬に加え、飼料中栄養成分の有効利用を目的とした抗菌薬含有添加物などで使用されています。国内で使用される抗菌薬の総量は、年間1,747トン、そのうち家畜は1,000トン程度と、ヒトに対する使用量の約2倍です。また、農薬として使用される抗菌薬は148トン程度と、こちらも見過ごせません。抗菌薬を過剰に使用することで、薬剤に耐性の微生物が選択され、耐性菌に置き換わる圧力を“選択圧”と言います。抗菌薬の大量使用は、この選択圧を高め、耐性菌の増加を引き起こします。

 ヒト以外で発生した耐性菌がヒトに伝播し感染症を起こし、今までの抗菌薬では治療出来ないという事態が日常的に起こっています。また、耐性菌の増加ペースと比較すると、新規抗菌薬開発のスピードは遅いため、耐性菌の増加を抑えることがこの対策の中心に位置づけられています。

 畜産分野では1999年から「動物由来薬剤耐性モニタリング(JVARM)」により全国の薬剤耐性動向を調査する体制が整っており、実はヒトよりも早い段階で問題視されていました。更に、世界規模での森林開発による耕作地や宅地の拡大により動物との接触機会が増え、食材の多様化、ペット動物との接触、急速なグローバル化などが後押しし、耐性菌が世界中に拡散する事態に陥っています。また、動物を媒介した感染症は歴史上多く存在し、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)もその一例です。よって、単一の種だけでなく、ヒト、動物、環境が相互に関連し、それら全てを良い状態にすることで全体の健康が得られる“One Health”という考え方が注目を集めています。

 世界保健機関が、世界保健デイで薬剤耐性を取り上げたのは2011年と比較的最近です。2015年5月に世界保健機構総会で薬剤耐性に関する国際行動計画が採択され、各国に2年以内に自国の行動計画を作成するよう要請し、同年11月には厚生労働省が「薬剤耐性タスクフォース」を設置し、「薬剤耐性対策アクションプラン」を策定しました。

 このアクションプランで掲げる6つの分野のなかで、当院は主に、①動向調査・監視、②感染予防・管理、③抗微生物剤の適正使用に取り組んでいます。当院には感染制御チーム(ICT)、抗菌薬適正使用チーム(AST)があり、我々感染症科は感染制御看護師、薬剤師、検査技師などの専門家と、チームとして協力し業務を行っています。主に感染症科は後者を担っており、前述した選択圧を回避するために、状況に応じた適切な抗菌薬使用の支援という形で、血液培養陽性症例や、カルバベネム系抗菌薬、ピペラシリン・タゾバクタム、セフェピムなどの広域抗菌薬を長期間使用症例へ関わらせて頂いております。

 当院は2008年よりカルバペネム系抗菌薬の適正使用支援を開始し、 2017年より活動を強化、更に2019年から感染症科が設立され、AST活動に力を入れております。適正使用支援を開始し、皆様のご協力の結果として広域抗菌薬、なかでもカルバペネム系抗菌薬、ピペラシリン・タゾバクタムの使用量はここ数年で半数以下に減少し、 抗菌薬購入コストも著減しております。

 “One Health”という公衆衛生学的視点から筑豊の医療、そして世界の健康に貢献していきたいと思っています。