教育コンテンツ

感染症TOPICS

第4回:妊娠可能年齢の女性と妊婦さんへのワクチン接種について
~百日咳、風疹~

感染症科 山手亮佑

 今回の感染症TOPICSでは、生まれてくる赤ちゃんのために妊娠前・妊娠中に接種が推奨されているワクチンを メインに説明します。妊娠可能年齢の女性だけでなく、旦那さんを含め赤ちゃんに関わる全ての方に是非読んで頂きたい記事です。妊娠可能年齢の女性に推奨されるワクチンは多数ありますが、今回は感染症法に基づく5類疾患である百日咳と風疹を中心に、赤ちゃんへの影響とワクチン接種の効果にスポットライトを当て説明していきます。

①百日咳

 百日咳は、急性の気道感染症で、主な症状は長期間続く咳嗽です。特に新生児や乳児が罹患すると重症化し、死に至ることもあります。その基本再生産数※は16-21とインフルエンザウイルスの約8-10倍です(1)。感染予防の観点からワクチン接種が重要で、日本では小児期に ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ4種混合ワクチン(DPT-IPV)を定期接種しています。しかし、百日咳ワクチンの免疫効果は、最終接種から4-12年で減弱し、ワクチン既接種者も感染し発症することがあります(2)。本邦でも大学で200人以上の大規模な集団感染が発生したり、小中学校での集団発生を発端とした地域での、患者発生数増加などが実際に報告されています(2)。青年・成人の感染者、特に家族の方が感染源となり、ワクチン未接種児が感染し重症化することが問題となっています。乳児の百日咳予防策として、米国疾病予防管理センターは、抗原量を減量した破傷風・ジフテリア・百日咳三種混合ワクチン(Tdap:当院採用輸入ワクチン)の接種を、妊婦を含む全ての成人に対して推奨しています(3)。妊婦に関しては、出産後ではなく妊娠毎・妊娠中(最適な接種期間:妊娠27-36週目)にワクチンを接種すると、母親の抗体が胎児に移行するため、乳児の百日咳に関連した入院や死亡が減少すると報告されています(4)。安全性も確認されており、適切な時期にワクチン接種することが重要です。

②風疹(先天性風疹症候群)

 風疹は、発熱・発疹・リンパ節腫脹を特徴とするウイルス感染です。症状は不顕性感染から、重篤な合併症の併発まで幅広く、臨床症状だけで風疹を診断することは困難なため、診断には抗体価やPCR検査が必須です。接触・飛沫感染し、その基本再生産数は7-9とインフルエンザウイルスの約3-4倍です(1)。風疹に対する免疫を持たない妊娠20週頃までの妊婦が、風疹ウイルスに感染すると、出生児が先天性風疹症候群を発症する可能性があります(5)。先天性風疹症候群の症状は、3大症状の心疾患、難聴、白内障に加え、網膜症、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球など多岐にわたります(6)。免疫獲得のため、生涯で通算2回の風疹ワクチン接種が必要とされていますが、本邦ではワクチン政策の遅れなどもあり、現時点でも妊娠可能年齢の女性を含め、成人の方で風疹ワクチンの接種回数が不十分な方が散見されます。男女共にワクチンを受け、風疹の流行を抑制し、妊娠可能年齢の女性は感染予防に必要な免疫を妊娠前※※に獲得しておくことが重要です(6)

※基本再生産数:一人の感染者から生じうる二次感染者数
※※風疹ウイルスは生ワクチンであるため少なくとも妊娠 1-2ヶ月前までには接種を完了してください。妊娠中の接種は禁忌です。

 赤ちゃんとワクチンに関しては、【Cocoon Strategy:繭戦略】という言葉があります。赤ちゃんを囲む皆さんがワクチンを打つことで、繭で囲むように赤ちゃんを感染症から守ることができます。ワクチン接種は接種する本人を守るだけでなく、将来を担う赤ちゃんを守ることにも繋がります。今回の記事を読み、接種希望やご質問、ご不明な点などがございましたら、お気軽に感染症科にご相談ください。