感染症TOPICS
第2回:成人対象ワクチンについて
感染症科 鈴木祥太郎
今回のテーマは、『成人対象ワクチンについて』の話題です。ワクチンで予防できる疾患や当院でのワクチンキャッチアップに関する取り組みなどについてご紹介します。
概要
病原微生物からの感染予防には、
- ①微生物を体に侵入させないための予防策(標準予防策、経路別予防策)
- ②侵入に備えた免疫を獲得するワクチン
ワクチンによる予防接種には、感染症の罹患や重症化の予防という直接的な効果と、社会において大部分の人間が免疫を獲得することで、集団流行を防ぐ集団免疫効果もあります。現在、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンも世間を賑わせています。ワクチンで予防できる疾患はvaccine preventable disease(VPD)と呼ばれており、現在WHOは25疾患をVPDとして指定しています(表1)。
VPDの中で頻度の高い疾患や公衆衛生上重要な疾患に対するワクチンは接種が推奨されており、日本では予防接種法があります。予防接種には法律に基づいて市区町村が行う『定期接種』と希望者各自で受ける『任意接種』があり、接種の費用に関しては、定期接種は公費(一部で自己負担あり)、任意接種は自己負担になります。日本におけるワクチンの現状は表2のとおりです。成人で接種が推奨されるワクチンは、年齢・妊娠の有無・免疫不全者・海外渡航者・医療従事者など個々人により異なります。
成人対象ワクチンとは
まず、ワクチンの接種状況が各世代によって異なります。例えば、国内の風疹対策は1995年までは中学生女子のみを予防接種の対象としていたため、40~50歳代の男性を中心に2012年~2014年に風疹が流行する原因となりました。その後、2018年にも風疹の再流行を認めたため、過去に定期接種対象ではなかった1962~1978年生まれの男性を対象に「東京オリンピックまでに抗体保有率を85%まで引き上げる」ことを目指し、風疹クーポンが配布されております。抗体価が低い方へMRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)の無償接種を行っており、当科の外来にも多くの方が来院しています。風疹は、妊婦が罹患すると先天性風疹症候群の発症リスクがあるため、社会全体でワクチンを接種し、集団免疫を獲得することが重要です。一度ご自身の母子手帳を確認してみてください。風疹に限らず接種されていないワクチンもあるはずです。過去に接種できていないワクチンを接種し、防げる病気を防ぐ事が大切です。
このように推奨されている予防接種を完遂できていない人に対して、ワクチンを追加接種することをワクチンキャッチアップと呼びます。当科でも救急科や救急外来と連携し、破傷風に関する積極的なキャッチアップも行っています。昭和43年(1968年)以前に出生した方は原則破傷風に対する免疫を持っていません。また、当科では図1の成人対象ワクチンのパンフレットを作成し、情報提供に努めています。新型コロナウイルス感染症の状況にもよりますが、東京オリンピックをはじめとしたマスギャザリングイベントも予定されており、国内では流行していない感染症が海外から持ち込まれる可能性も高まります。予防接種を行い、VPDをしっかり予防していくという観点が重要です。親族や知人の方にも是非とも情報提供をして頂き、感染症科のワクチン・トラベル外来を有効活用してください。