飯塚病院 整形外科

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主な病気・治療について

人工膝関節置換術

はじめに

 人工関節置換術は破壊した関節機能の再建手段として極めて有用で評価されている手術であり、20世紀後半の整形外科の歴史において最も輝かしい業績の一つです。これまでの様々な努力により人工膝関節の成績は向上してきているため、その症例数は近年著しく増加し、現在日本で年間7万例を超えています。

膝関節の手術適応

 患者さんによって、それぞれ適応は異なりますが、一般的には以下の場合手術の適応となります。

  • 保存的な治療法(安静、薬物療法、理学療法など)では、痛みが改善されない場合。
  • 痛みがひどく、日常生活動作が制限され、生活の質が低下している場合。
  • 関節の可動域が制限され、日常生活動作に支障がある場合。
  • エックス線検査で、関節破壊が進行している場合。

 このような状態となった方の中で、人工関節以外の手術(関節鏡視下手術や骨切り術など)の適応とならない、比較的高齢の方が適応となります。(人工関節の耐久性の問題から、活動性の高い若年者や重労働に従事せねばならない方には、先ず最初に他の手術が可能でないか検討します。)
またその関節に最近感染した既往のある方、最近敗血症を発症した方は禁忌です。

現在の人工膝関節

 現在の人工膝関節には膝の関節面全てを置換する全人工膝関節(TKA)(図1-1)と、損傷が膝の内側か外側のどちらか一方の場合に膝の関節面の一部を置換する単顆置換術(UKA)(図2)の2種類があります。
 その使い分けですが、簡単に言えば膝の前十字靭帯、後十字靱帯ともに保たれていて変形も軽度で、内外側の一方のみが損傷されている場合に単顆置換術の適応となります。逆に変形が高度で内外側ともに傷害されているか、内外側一方に加えて膝蓋大腿関節まで損傷されている場合は、全置換術の適応となります。
 全人工膝関節(TKA)のデザインは、基本的には関節の表面のみを置換するタイプで、一般的に、金属製の大腿骨側のコンポーネント(部品)と脛骨側のコンポーネント、そして、その間に入る脛骨の関節面の役割を担うプラスチック製(超高分子ポリエチレン)のインサート(部品)で構成されます。必要に応じて膝蓋骨のコンポーネントも置換します。これらはインプラントと呼ばれています。
 人工関節の本来の考え方が変性摩耗した関節軟骨、軟骨下骨の再現ですから、TKAの手術法は図1-2のように軟骨の深層にて骨を切除し、軟骨の代替としてインプラントを表面に設置する表面置換です。
 単顆置換術(UKA)は、図2のように大腿脛骨関節の内側か外側のみを置換するもので、十字靱帯の機能が保たれている膝に使用するため術後の機能も良好ですし、手術侵襲も少ないため術後もより短期間に回復します。ただし、骨との接触面積が少ないため、骨との固着に注意が必要です。術後もあまり負担を掛け過ぎないよう患者さんに指導することが重要です。


人工膝関節全置換術
図1-1 人工膝関節全置換術
図1-1

図1-2 人工膝関節全置換術
図1-2
人工膝関節単顆置換術
図2 人工膝関節単顆置換術
図2

(図1-1、1-2:日本ストライカー株式会社ホームページより)
(図2:ジンマー株式会社ホームページより)

人工膝関節の成績

 人工関節の目的は、疼痛の軽減、関節機能の再獲得、変形の矯正です。全人工膝関節(TKA)の疼痛軽減効果は大きく満足度も高いようです。関節の可動域も改善し、当院の症例では、膝の屈曲角度は平均で術前112°が術後126°、伸展角度は術前平均-15°が-2°と改善し、特に半数以上の方が130度以上の深屈曲が可能となっています。膝の変形の矯正効果も著しく、高度のO脚やX脚の方も若い頃と同じような真っ直ぐな膝になります。
 単顆置換術(UKA)では、より良好な術後可動域が得られ、術後の平均屈曲角度は140°、伸展角度は-2°であり、約半数の方が正座が可能となります。
 しかし人工関節は人工物ですので、その耐久性には限界があります。全人工膝関節(TKA)の生存率(寿命)は、現在報告されているものは、10から15年で約90%です。ただし、現在使用しているインプラントはより改良されているため、より長期の耐久性が期待されています。単顆置換術(UKA)も、10年で90%以上の成績が報告されていますが、まだTKAほど良好な長期成績は得られていません。そのため単顆置換術(UKA)を行うには、より慎重な患者選択が必要です。

合併症

 人工膝関節の重大な合併症として、深部静脈血栓症/肺塞栓症と感染が挙げられます。
 肺塞栓症は死亡率が30%と高率ですが、TKAにおいても600人から1000人に一人発症すると言われています。そのため当院でも、予防のため弾性ストッキングを着用し、早期にリハビリを開始し、抗凝固療法を併用しています。当院は循環器病センターを併設しているため、万一発症した場合でも、迅速な対応が可能です。
 感染も厄介な合併症です。抗生剤の予防投与、クリーンルームの使用にもかかわらず、人工関節感染は約1%と報告されています。半数は術後早期に発症しますが、半数は晩期感染で術後数年もたってから発症します。感染に対しては、発症後早期の対処が重要です。起炎菌により成績は異なりますが、炎症を鎮静させるために一旦人工関節の抜去が必要となることもあります。

終わりに

 当院の最近の話題としましては、手術器械の改良に伴い最小侵襲手術(MIS)も取り入れ、また両膝手術が必要な方には全身状態に問題なければ両膝同時人工関節置換術も行っております。
 

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