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032.打撲捻挫にNo89治打撲一方ぢだぼくいっぽう :漢方アラカルト

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 当たり前のことですが人は時々怪我をします。現在では怪我の疼痛管理には当然NSAIDsが使われますが、その元祖であるアスピリンが世にでたのは1899年のこと。それ以前、我々医者は外傷に対して一体どのように対応していたのでしょう?今回ご紹介させていただくのはその答えの一つとなる漢方処方です。その名も「治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)」。なんとなく効きそうなネーミングですよね。この処方は武士が戦いに明け暮れた戦国時代にわが国で開発された伝統薬です。

 症例をご紹介します。症例は29歳男性です。6ヶ月前に左膝複合損傷に対して他院で関節鏡下に靭帯再建術を受け経過は順調だったそうですが、2週間前からはっきりとした誘因もなく下肢が腫れ出したとのこと。抗生物質とNSAIDsの内服治療を2週間受けても改善しないとのことで漢方治療を求めて受診されました。診察すると左下腿は全体的に発赤、腫脹し、熱感があります。37.5℃の微熱があり、採血ではCRP3.5mg/dlと炎症所見を認めます。軽度の蜂窩織炎です。患者様は体格良好、脈腹とも充実しており、腹診で臍の右下に圧痛を認めます。私が選んだ処方は「治打撲一方」。悪化するならばすぐに抗生物質の経静脈的投与するつもりで治療を開始しました。内心心配しながら迎えた一週間後の診察日・・・左下腿はすっきりと引き締まり、疼痛、腫脹とも消失していました。しかも、以前はあった足のむくみまでなくなったと言います。採血上もCRPは陰性化しており、聞けば、治打撲一方の内服を開始して2日後から症状は急速に軽減したとのこと。治打撲一方が有効であったといえるでしょう。

 治打撲一方はその名の通り、本来は打撲、捻挫などに用いられる処方です。漢方医学的には、虚実中間以上の病態に比較的幅広く用いられる処方で、駆オ血剤の範疇に分類されます。急性期から亜急性期の熱感のある腫れ、痛みがよい適応です。「転倒して肋骨にヒビが入った」、「足を捻って捻挫した」、そういう方に処方して即効的に痛みが軽減することもしばしば経験されます。過去に打撲捻挫にイブプロフェンと同等の消炎鎮痛効果があるとの報告がありますから、消炎鎮痛作用があるのはもちろんですが、紹介した症例のように局所の浮腫などを改善する微小循環改善作用、抗菌作用も期待できると考えます。

 治打撲一方は外傷に対する日本の智恵とも言える処方です。外傷治療薬の選択肢のひとつに加えられてはいかがでしょうか。 

(野上)

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