飯塚病院 漢方診療科のページ


008.慢性便秘:こんなときには漢方

目次へ戻る

●慢性便秘
  処方選択のポイントは『便秘になるとどうなるか?』

腹が張る  桂枝加芍薬大黄湯けいしかしゃくやくだいおうとう(ツムラ134)
胃(心窩部)がつかえる  附子瀉心湯ぶししゃしんとう(エキスでは下記の方剤で代用)
 三黄瀉心湯さんおうしゃしんとう(ツムラ113) or
 三黄瀉心湯さんおうしゃしんとうカプセル(コタローNC113)+加工ブシ末(三和S-01)
症状なし  大黄甘草湯だいおうかんぞうとう(ツムラ84)
 大黄甘草湯だいおうかんぞうとうエキスT錠(オースギSG-84T、1包=2錠)

【薬の解説】

1. 桂枝加芍薬大黄湯
腹が張って痛む 腹直筋緊張 便通異常(便秘や臭いの強い下痢)兎糞状の便
<鑑別方剤>
大承気湯だいじょうきとう(ツムラ133):臍を中心に腹が硬く膨満 頑固な便秘
2. 附子瀉心湯
三黄瀉心湯(ツムラ113) or 三黄瀉心湯カプセル(コタローNC113)+加工ブシ末(三和S-01)
:冷えに応じて1.5g〜3.0g/日
便秘をすると胃(心窩部)が痞える、冷え症(足が冷たい)
例)高齢者、脳血管障害後遺症、糖尿病、高血圧など、動脈硬化を伴う便秘によい
3. 大黄甘草湯
便秘になってもほとんど自覚症状がないのが特徴
長期間続くと、食後の胃のつかえ・ときに嘔吐、食欲低下が出現することもある

大黄だいおう附子ぶし…実地臨床における加減のコツ
 今月号で紹介した方剤は、すべてに緩下作用のある大黄を含んでいるので、使用量は患者の排便状態をみながら加減する。必ずしも1日3回の服用でなくてよい。眠前に服用することもある。さらに瀉下作用を強くしたいときは大黄末を追加するが、経験的に大黄末の瀉下活性は、大黄含有製剤の1日分が大黄末1g前後に相当する。
 附子は熱薬(昨年10月号参照)。冷えがない人が服用すると中毒をおこす可能性がある。
 附子瀉心湯は、便秘をすると胃が痞える、冷え(寒)のある人に有効。冷えがないなら、附子なしで三黄瀉心湯を処方する。高齢者などでは冷え症状を伴うことが多いが、寒がある人には大黄+附子の組み合わせで、温めながら下す(これを温下=うんげ=という)。
 大黄と附子は「大黄末」「加工ブシ末」として、エキス剤に追加できる便利な薬である。使い方を会得すると、エキス剤の応用範囲が拡がる。

<適応病名>
 ツムラ桂枝加芍薬大黄湯、ツムラ大承気湯、コタロー三黄瀉心湯カプセルは「常習便秘」
 ツムラ三黄瀉心湯、ツムラ大黄甘草湯、オースギ大黄甘草湯エキスT錠は「便秘症」に適応があります。加工ブシ末(三和 S-01)は他剤との配合専用です。

瀉下作用のある漢方薬は多数あるが、今回は他に問題がなく便秘症状のみ訴える場合に使用する方剤を取り上げた。

(文責:漢方診療科 中村佳子)

西洋医学的な発想 〜便秘について〜

原 因

1. 器質性便秘 腸管や他の腹部臓器の器質性疾患に基づく腸内容物の通過障害が原因となって起こる(大腸癌、腸管癒着など)
2. 機能性便秘 器質性の原因によらない便秘
(1) 急性 精神的要因や生活環境の変化によって起こる一過性便秘
(2) 慢性 腸管の機能異常が持続する便秘(以下の3つに分類)
a. 痙攣性便秘 下行〜S状結腸の痙攣性の収縮によって内容物の通過が障害される。
糞便は小さく硬い兎糞状となる。過敏性腸症候群の便秘型はこのタイプ。
b. 弛緩性便秘 腸管の緊張や蠕動運動が低下し、腸内容物の輸送が遅延することによって起こる。機能性便秘のなかで最も多く、高齢者や長期臥床者などに多い。
c. 直腸性便秘
(排便困難症)
排便反射が減弱し、直腸内に便があっても便意を感じなくなるために起こる。排便を我慢することが多い人、浣腸を頻回に行う人などに多い。

全身性疾患(代謝・内分泌疾患、神経筋疾患、膠原病)に伴う便秘もある。薬剤性のものもあるので薬剤服用歴の聴取は重要。

治 療

器質性便秘 原因疾患の治療が優先。
機能性便秘 まず生活指導や食事指導を行い、効果が不十分な場合は薬物療法を併用。
食事指導 弛緩性便秘では、便容量を増加させ大腸を刺激し蠕動運動を促進する食物繊維の摂取をすすめる。痙攣性便秘では消化のよい低残渣食が有効。
薬物療法 痙攣性便秘では塩類下剤や抗コリン薬を投与するが、刺激性下痢は症状を増悪させることがあり好ましくない。弛緩性便秘では、膨張性下剤、刺激性下剤、消化管運動亢進薬を投与する。刺激性下剤は漫然と投与せず必要最小限に留める。(長期投与により習慣性と消化管の組織形態的変化が報告されている)

(文責:消化器内科 本村廉明)

〜 部長のたわごと(8) 攻める薬と守る薬 〜
 大黄は体内に凝り固まった毒を突き砕き、押し流すような作用があり、その一環として瀉下作用も伴います。このように毒や病を攻めるような治療法を瀉(しゃ)といいます。瀉法は、実証すなわち生体反応が充実している病態に対する治療方法です。(反対に反応が虚弱な病態は虚証で、補法を用いて治療します。)附子は熱薬で生体を暖める作用が強く、一般には産熱が不十分な虚証に適応となります。大黄は寒薬とされていますが生体を冷やす力は弱く、附子と大黄が組んだ附子瀉心湯は全体として『寒実証』に対する治療薬ともいえます。
(文責:漢方診療科 三潴忠道)

飯塚病院 漢方診療科
 福岡県飯塚市芳雄町3-83  TEL:0948-22-3800 / FAX:0948-29-8075