飯塚病院 漢方診療科のページ


006.感冒性下痢・嘔吐下痢症:こんなときには漢方

目次へ戻る

●悪寒や発熱(熱感)を伴う下痢

自然発汗(-)・うなじの凝り 葛根湯かっこんとう(ツムラ1)
腹痛・しぶり腹・強い便臭 黄メ湯おうごんとう(三和S-35)
冷えを伴う水様性下痢・心窩部の抵抗or圧痛 桂枝人参湯けいしにんじんとう(ツムラ82)

【薬の解説】

1. 葛根湯 → 比較的元気な人の感冒性下痢に!
自然発汗(-) 後頚部や項の凝り(+) 下痢や腹痛はさほど強くない
2. 黄メ湯 → 排便時にしぶり感あり 便臭強い
腹痛強い
<次の一手>
 黄メ湯のようだが悪心・嘔吐を伴うときには
 小半夏加茯苓湯しょうはんげかぶくりょうとう(ツムラ21)を混ぜるとよい(黄メ加半夏生姜湯おうごんかはんげしょうきゅうとうの代用)
3. 桂枝人参湯 → 排便時にしぶり感ない 水様便 便臭弱い
心窩部の抵抗・圧痛(+) 他覚的に心窩部に冷えを感じる事が多い 頭痛・のぼせ感(+)
全体的には冷え症の人に使用する
例:老人の感冒性下痢 寝冷えの下痢
五苓散ごれいさん(ツムラ17)…小児嘔吐下痢症の代表的治療方剤
使用目標 → のどの渇き 尿量減少
のどが渇いて水を飲みたがるが飲むとすぐ吐いてしまうが、また水を飲みたがる。
こんな時は五苓散が効く!(時には成人の嘔吐下痢にも効く)
嘔気などのため服用できない時は、少量(約20cc程度)の湯に溶かし、冷まして注腸する。

吐き気がある時の服用のコツ
 吐き気がある時は温かい湯で溶いた漢方薬は飲みにくいことが多い。そんな時は白湯に溶いた後、冷まして少しずつ服用する。

※エキス剤の適応病名・・・「下痢」に関連する病名・症候を抜粋
(1) 黄メ湯:腸カタル・消化不良・嘔吐・下痢
(2) 小半夏加茯苓湯:諸病の嘔吐(急性胃腸炎など)
(3) 桂枝人参湯:慢性胃腸炎・胃アトニー
(4) 五苓散:急性胃腸カタル・下痢・悪心・嘔吐
(5) 葛根湯:「下痢」に関連する適応病名がないので注意。感冒・鼻かぜ・肩こりなど

【ノロウイルス感染症に黄メ湯が著効】

 当科ではノロウイルス感染による嘔吐下痢に対して黄メ湯が著効した症例を多数経験した。黄メ湯エキスを1〜2包服用したら症状の改善がみられ、補液はほとんど不要であった。
 漢方薬の場合、嘔吐や下痢が止まるだけでなく、ウイルス感染そのものに有効で、悪寒や発熱といった症状も一緒に治してしまうところが便利である。

(文責:漢方診療科 中村佳子)

西洋医学的な発想 〜急性下痢症〜

T.病状を聞き取るうえで大事なポイント

(1) 免疫状態(AIDS、化学療法中、免疫抑制剤使用、成因となるウイルスや細菌、寄生虫が免疫正常時に比べて大幅に広がります。例:サイトメガロ、ヘルペス、MAC、クリプトスポリジウム、ストロンジロイズと、舌を噛みそうです)
(2) 先行使用した抗生物質の有無(遡って、6週間くらい前までは要注意)
(3) 海外旅行歴(東南アジア、インド、など、皆さんの想定どおりの地域)
(4) 家族内、職場内における症状の集積(保育園や療養型施設職員も要注意)
(5) 特異的な大腸疾患の既往(潰瘍性大腸炎やクローン病が代表)
(6) 下痢を生じる可能性のある薬剤の使用の有無(見逃す危険性のあるものとしては、ミソプロストール薬品名サイトテック、下剤乱用:この場合、絶対に教えてくれません!)
(7) 血液や粘血混入、強度の腹痛や高熱の合併(大腸炎を示唆します)

U.マネージメントの基本

特別な検査・治療を必要とする疾患がなさそうなら、自然軽快に期待して経過を見守ることです。「脱水になると大変」といって点滴を過大視する傾向がありあますが、経口水分のほうが点滴よりも早期に改善するという報告もあり、点滴信仰は曲がり角にきているかもしれません。嘔吐で飲めない時は、止むを得ませんが。
疑うような状況があれば、次のような検査も行う場合があります。
CDトキシン、S状結腸鏡 ⇒ 偽膜性大腸炎
血小板数、尿検査(粘血便、食中毒発生)⇒ O157大腸菌感染
便培養 ⇒ 食中毒発生、届出・輸入感染症
抗生物質はめったに必要としません。必要な状況は、腸チフス、赤痢、難治性の抗生剤起因性大腸炎、もしくは重症度が高くて嫌な予感のするとき。下痢がひどくて困るときや、腹痛が強いときには、ロペラミドのような蠕動抑制を使用することがあります。病状を遷延させることが危険視されていますが根拠は乏しく、時には使用します。
大体は、1週間くらいの経過で自然軽快しますが、10日以上続くときには寄生虫疾患の可能性や、慢性下痢を生じる疾患の可能性も考えることになります。

(文責:総合診療科 井村 洋)

〜 部長のたわごと(6) 陰と陽 〜
 物事のオモテにウラはつきもの。アダムがいればイブがいて、太陽があれば太陰(月)、上と下、hotとcoldなどの対語は万国共通に存在する。これを中国伝来の漢字で表現すれば、自然界の事実として森羅万象すべてに相対的な『陰陽』が存在するといえる。以前(昨年10月号、たわごと(3))に述べた温薬と寒薬も、つまりは薬性における陰陽。漢方医学における病態を“しょう”というが、その最も基本的な尺度も陰性の病態(陰証)か陽性の病態(陽証)かである。陰証は病態が陰気、つまり生体の反応性が鈍く、必要な熱産生も出来にくいので冷え性タイプになりやすく、多くはかんが主体。陽証はその反対に熱産生が盛んで暑がり(熱が主体)の病態、あるいは冷えが明らかではない病態である。例えば下痢でも、強い便臭、激しい腹痛や排便後の肛門灼熱間(裏急後重りきゅうこうじゅう)などは陽証の下痢、水様の便で匂いや排便直後は症状が軽いのは陰証の下痢に特徴的である。
(文責:三潴忠道)

飯塚病院 漢方診療科
 福岡県飯塚市芳雄町3-83  TEL:0948-22-3800 / FAX:0948-29-8075