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漢方薬というと「あまり効果がなさそう」というイメージをもたれる方が多いと思います。私も半信半疑でしたが、飯塚病院に赴任して最先端の漢方治療をみて驚きました。
受け持った入院患者さんは30年来のアトピー性皮膚炎で全身から滲出液が流れるひどい状態でした。患者さんは「今までステロイド外用剤で治療してきたが治る希望が持てず、心身ともに疲弊してしまった。リバウンドを覚悟で漢方だけで治りたい」とおっしゃるのです。患者さんは大きな期待を持っており、とても責任が重いと感じました。正直に言ってこんなにひどいアトピーをどうやって治療したら良いのか困りましたし、本当に漢方だけで良くなるのか不安でした。指導医にそれを尋ねると、「皮膚以外のところにも目を向けて治療しましょう。」と言われました。そして、漢方医学独特の『虚実』や『寒熱』という観点から患者さんの状態を把握しました。これは、患者さんの免疫応答や治癒能力の程度を捉えたものと思われます。診察の後、寒をとることを目標に『赤丸料』という薬を処方しました。最初の1週間は変化がありませんでした。しかし2週目に入ると滲出液の流れが止まり、水でシャワーを浴びても冷えを感じなくなったとおっしゃいました。寒がとれてきたのです。体の芯の冷えが取れた事から、次は皮膚の熱を冷ます方針に変りました。熱を冷ます代表的生薬『石膏』を含んだ『桂枝二越婢一湯加黄耆』に処方が変更されました。4日内服後さらに熱を冷ますために『黄連解毒湯』を加えたところ、逆に四肢末端の冷えが出現し見た目にも指先が白くなってしまいました。そこで『黄連解毒湯』を中止し、『桂枝二越婢一湯加黄耆』に体を温め新陳代謝を高める『炮附子』をほんの少量加えました。すると、患者さんは冷えも熱感も感じなくなり調子が良いとおっしゃいます。それとともに皮膚も赤みがとれ引っ掻いても滲出液が出ない丈夫な皮膚に変わってきました。
全身を診て均等に治療していくという考え方と、その為の処方が豊富にある事が新鮮でした。また、漢方医学的診断が正しければ薬は数日で効きますが、間違うと薬が合わず、2日もすると悪い反応が出ます。こういう反応の速さにも驚きました。もうひとつ驚いたのは、相反する作用を持つ生薬を同時に使用することです。料理の味付けで使う砂糖と塩の関係といえば伝わるでしょうか。初めは効果を打ち消しあうのではと思っていましたが、実際『石膏』と『炮附子』という相反する生薬を同時に投与する事によって皮疹は改善しました。ただし、配合する時に微妙な量の加減がなされていたからなのは、言うまでもありません。
漢方治療はその人だけが特別おいしいと感じる理想の料理を作るかのようです。患者さんが薬にあわせるのでなく、患者さんに薬をあわせていく漢方治療に驚きと優しさを感じました。
(小尾) |