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013.腹部知覚異常の一例:漢方アラカルト

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 今回は、大腸癌の手術4ヶ月後に発症した腹部の体表痛に漢方方剤が奏功した一例です。症例は62歳の男性で、肝転移を伴う大腸癌でしたが、通過障害を回避する目的で大腸右半切除術が施行されました。術後は順調でしたが、4ヶ月後から腹部の右前面(季助部〜鼠径靭帯)に何か物が触れたりすると電気が走ったようなビリビリした疼痛が出現し、体を曲げ伸ばしなどで誘発されるとのことでした。診察時には臍付近をティシュぺーパーで軽く触れるだけでもビクッと上半身を持ち上げるほどでした。当人の訴えは、普段の腹痛とは違い皮膚表面だけが痛いとのことでした。この疼痛は鎮痛剤ではほとんど軽減せず、夜間寝返りをうつたびに覚醒し、時にはペンタゾシンの投与も受けていたそうです。術後7ヶ月目に、外科からの紹介で、だぶだぶの上着を着て下着を着けずに当科を受診しました。

 漢方診療で重要な腹力や腹直筋の緊張などを診る腹診は左半分でしかできませんでした。夜間に覚醒する程の疼痛であり、汗をかきやすいことから、烏頭桂枝湯(うずけいしとう)を処方しましたが、疼痛の軽減はほとんど認められませんでした。その間に診察で新たに分かったことは、腹部の疼痛は日によってかなり強弱があり、最大疼痛部位も日によって移動していました。また、風呂に入って暖めても、冷房などで冷えても疼痛には変化がありませんでした。そこで、温めようという考えをやめて、気のめぐりをよくする黄耆桂枝五物湯(おうぎけいしごもつとう)に転方すると、初めてビリビリした疼痛が軽減し始め、翌々日には下着が着けられるようになりました。方剤量を頭初の1.5倍程度にすると、疼痛部位は臍を中心に直径5センチの半円内にとどまり、強い電撃痛はピリピリしたしびれ感に変わりました。2週後にはこのしびれ感も右大腿前面へと移動し、4週後には初診時の疼痛の10%程度と、ほとんど気にならないくらいにまで改善しました。その後毎日運動もできるようになり、3ヶ月後に廃薬できました。

 漢方では「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」が全身をくまなくめぐることでホメオスターシスを保っていると考えます。気は目には見えませんが、臓腑や器官の生命維持をする根元であり、血や水を全身に循環させて栄養を補給したり排泄したりする機能活動の動力源でもあります。この気の不足とめぐりが局所で悪くなったために、血も水も十分に循環できずに、そこで麻痺、しびれ感、強い痒みなどの知覚異常が生じたと考えられます。

(鎌田)

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