がんをピンポイント攻撃 分子標的治療

がんをピンポイント攻撃 分子標的治療

  • 2018.10.10
呼吸器腫瘍内科
部長 海老規之 医師

飯塚病院の医師をはじめとするスタッフが、医療に関する情報や病気の予防法などを分かりやすく解説する西日本新聞の連載「あなたのカルテ」の転載です(西日本新聞筑豊版 毎週水曜日連載中)。



分子標的治療

西日本新聞 2016年12月14日朝刊掲載

Q. 分子標的治療という肺がんに対する新しい治療があると聞きました。どんな治療法なのか教えて下さい。

 分子標的治療とは「正常な体と病気の体の違い」、あるいは「がん細胞と正常細胞の違い」を遺伝子レベル、分子レベルで解明し、がん細胞に特有な、特定の標的(分子)を狙い撃ちにして攻撃し、その機能を抑える治療です。抗がん剤と比べ、副作用の軽減が期待できます。使用する医薬品を分子標的治療薬と呼びます。
 がんはDNA(遺伝子)の変異が蓄積することで発症すると考えられていますが、肺がんでは、一つの遺伝子変異でもがんを引き起こす強い変異が見つかっています。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子変異がそうです。
 EGFR遺伝子変異は、欧米人と比べ日本人に多く認められます。この変異を標的とするEGFR阻害薬には、ゲフィチニブ(イレッサ®)、エルロチニブ(タルセバ®)、アファチニブ(ジオトリフ®)、オシメルチニブ(タグリッソ®)があります。
 ALK遺伝子変異の頻度は日本人と欧米人は同等ですが、その頻度は高くありません。ALK阻害薬には、クリゾチニブ(ザーコリ®)、アレクチニブ(アレセンサ®)、セリチニブ(ジカディア®)があります。
 これら以外にも、分子標的治療の対象となりうる多くの遺伝子変異が見つかっており、新しい遺伝子変異に対する分子標的治療薬を使用できる日は、遠くない将来にやってきます。
がんをピンポイント攻撃 分子標的治療

がんをピンポイント攻撃

 がんは多くの栄養を必要とするため、多くの血管を引き込んで成長しようとします。そのための血管内皮増殖因子をがんが産み出すことがわかっており、これを阻害する薬には、ベバシズマブ(アバスチン®)、ラムシルマブ(サイラムザ®)があります。これらはがんを「兵糧攻め」するような治療薬です。
 がんを制御する上で重要な役割を果たすのが免疫です。免疫は強ければ良いというものではなく、アクセルとブレーキのバランスを取りながら働いています。
 がんは免疫からの攻撃を回避するためにブレーキの方向に作用する物質を産み出していることが分かっています。このブレーキを解除することで正常の免疫を取り戻し、がんを攻撃できるようにする治療薬がニボルマブ(オプジーボ®)です。
 この10年ほどで肺がん治療は様変わりし、分子標的治療薬を中心に多くの新薬が誕生しています。治療薬の増加で治療の選択肢も増えますが、副作用管理など、より専門性が必要な治療となってきています。飯塚病院はがん拠点病院として多くの専門医が治療に当たっています。
 医師の診断や治療法について、患者さんが別の医師の意見を求める「セカンドオピニオン」も行っていますので、遠慮なくご相談ください。