気をつけたい“むせ”

  • 2018.05.23
リハビリテーション科
診療部長 山下 智弘 医師

飯塚病院の医師をはじめとするスタッフが、医療に関する情報や病気の予防法などを分かりやすく解説する西日本新聞の連載「あなたのカルテ」の転載です(西日本新聞筑豊版 毎週水曜日連載中)。



気をつけたい“むせ”

西日本新聞 2017年4月12日朝刊掲載

Q.  最近、食事の際にむせることが多くなりました。むせの原因にはどのようなものがあるのでしょうか?

A. 飯塚病院が2017年3月16日に開催した、第39回地域医療サポーター養成講座で、「意外と怖い?! 食事の時のむせや咳」と題し、嚥下困難・障害についてお話した際に、参加者からいただいた質問です。
 まずは、言葉を整理しましょう。食べ物や飲み物を口から取り込み胃へ送り込む動作を「摂食・嚥下」の運動(以下、嚥下運動)と言い、この運動に支障をきたす状態を「嚥下困難・障害」(以下、嚥下障害)です。嚥下障害の代表的な症状に、食べ物や飲み物を飲み込もうとした際、食道ではなく気管に入ってむせるという症状の「むせ」があります。
 嚥下運動には歯や舌、喉を含む多くの器官が関わっています。そのため、加齢などによりいずれかの器官の機能が衰えたり、病気の影響を受けたりすることで嚥下障害が起こり得ます。嚥下障害を引き起こす病気にはさまざまなものがありますが、特に脳梗塞・脳出血などの脳血管障害、神経や筋疾患などでは高い確率で起こります。また、加齢による嚥下障害の主な原因は、虫歯や噛む力の低下、味覚や口の感覚の変化などが挙げられます。この状態が続くと、思うように食事が食べられなくなることで食が細くなり、その結果、痩せて入れ歯が合わなくなり、さらに食事が食べられなくなる、という悪循環に繋がります。

高齢者の誤嚥性肺炎に注意

 また、むせにより、食べ物が気管から肺へ入った場合、食べ物と一緒にばい菌(常在菌)も侵入してしまいます。ばい菌が食道から胃へ入る場合は問題ありませんが、肺に入った場合は肺の中で増殖し、肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こすこともあります。高齢者の肺炎の多くはこの誤嚥性肺炎だと言われており、その対応が問題となっています。
 加齢による嚥下障害を予防するためにも、歯や口腔内の衛生管理に加え、ウォーキングなどで全身の筋力維持・向上を心がけましょう。
 食事の際に気を付けたいのが姿勢と食べ方です。猫背にならないように注意し、少し顎を引くように意識することをお勧めします。そして、一度に口の中に入れる量を少なめにして、しっかりと噛むように心がけましょう。
 むせる・飲み込みにくいなどの症状がひどい場合は、かかりつけ医などを受診し、相談してください。飯塚病院の場合、患者さんの精神機能、身体機能も含めた全身状態をチェックし、内視鏡などを用いて、口腔、咽頭、喉頭の状態を検査します。それらの結果から、治療が必要な状態であるか否か、問題が起きている場所やその進行度などを調べます。治療が必要だと診断した場合は、経管栄養法・リハビリ訓練・手術などの治療法の中から患者さんの状態やご意向に合わせて選択し、治療を進めます。


 私たちの生活において「食べる」ことは、とても大切な活動の一つです。単に栄養を取り込むだけでなく、コミュニケーションを楽しむなど、生活のハリにも繋がるものです。歳を重ねても楽しく食べ続けるためにも、先述の予防法に加え、カラオケ、詩吟、おしゃべりなど、声を出すことに積極的に取り組みましょう。


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